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Young Talent

2021年11月1日

生き生きと、自律的に働く上での
コーリング(天職)と個人のパーパス

亜細亜大学経営学部 教授
柏木 仁 氏

「一人ひとりに生き生きと、自律的・自発的に働いてほしい」ということは、組織・人材開発に携わる者がこれまでもずっと抱いてきた想いである。また今、社会の変革期を迎え、事業がこれからも必要とされ続けるために新たな創造性が不可欠とされるなかで、その実践はこれまで以上に切実に求められている。このテーマに、どう取り組んでいくべきなのだろうか。
実はこのテーマは、学術研究の世界でも古くから研究されてきた。特に近年は、コーリング(天職)という概念が現代的に意味づけされて、再注目されているという。ここにヒントがあるかもしれない。
コーリングとはどのようなものなのか。どのような研究成果が得られているのか。
亜細亜大学経営学部教授の柏木仁氏にお話を伺った。

現代的概念のコーリング(天職)とは


私は、自分の職業人生の中で「自分が本当にやるべきことは何だろうか」「自分の天職は何なのだろうか」とモヤモヤとするような気持ちを感じてきました。コーリングという概念の研究は、そんなモヤモヤを解消する一助になるのではないか、さらには人が生き生きと働いて成長する仕組みの解明の一助になるのではないか、そんな想いをもってこの研究に取り組んできました。

コーリングとは、日本語の天職に近い概念ですが、時代の流れと共に少しずつ意味づけが変わり、現在では「古典的概念」「新古典的概念」「現代的概念」という3つが併存しています。

「古典的概念」のコーリングとは、神が与えた才能を人類の幸福のために用いるときに見出されるもの、神が人間に与えた任務などと指摘される概念です。特に聖職者や神の教えを実践する立場の人たちは自分の職務に対して感じるべきとされる、宗教性の強い概念でした。「新古典的概念」と呼ばれるコーリングでは、古典的概念よりやや宗教色が薄れ、ある特定の職業に就くことについての自己超越的な命令であるなどの指摘がされ、その職業の社会に対する貢献(向社会性)が重視される概念になります。公益性があり、非営利性の強い職業に就く人たちが強く感じるべきとされる概念といえるでしょう。

それに対し、「現代的概念」のコーリングは、自分にとっての職業の目的や意義、情熱を注げるものなのか、自己実現できるものなのか、といった個人的な意義を重視する概念です。私は先行研究を参考に、「個人がある職業や役割に人生の目的として情熱的に惹かれる状態」と定義しています。職業そのものではなく、自らの職業に目的や意義を感じる状態と捉えていますので、「コーリングがある・ない」ではなく、「コーリング感をもつ、コーリング感が高い」という言葉で説明すべきものだと考えています。

コーリング感をもつことのメリットとデメリット


コーリング感をもつことは、職業人生において様々なメリットをもたらすことが指摘されています。例えば、コーリング感が高い個人は仕事を単なる義務と捉える個人よりも、収入が高い、より高い地位や名誉を得ており、欠勤日数も少ない(※1)。自信がある、よく働く、他者や集団を自主的に助けようとする、情動がプラス傾向である、仕事を楽しむ(※2)などです。また、コーリング感のある従業員は、自分の雇い主である会社を、コーリングを実現する手段を提供するものと捉えている可能性が高い(※3)といった指摘もあります。これは、これからの社会のために目指すべきといわれている、企業と個人の関係性に近い姿かもしれません。

しかし、組織という様々な制約のある環境で、働くことを通じて自分の夢や目標を追求することは簡単ではありません。いつまでに、どのように職務を遂行するかという点で、従業員が自己決定できる範囲は限られることもあるはずです。ですから、コーリング感をもつことのデメリットを鋭く指摘する議論も多くあります。例えば、コーリングを感じる職業に就いているのに、組織内の様々な困難や障害により、組織の職務と個人の夢や目標を両立できず、怒りやストレスを感じ、意欲を減退させてしまう(※4)場合もありますし、コーリングを感じる職業に就くために必要な機会やスキルに恵まれない人もいるでしょう。既に自分の人生に深く根づいている職業や役割があるため、現実的に従事できない場合もあります。

「コーリングは、とにかくあればいいということではなく、叶えられないコーリングがあるよりは、コーリングがないほうがまだましである(※5)」という興味深い考察もあります。

コーリング感がもてなくても、パーパスを意識できること


私は、全ての人がコーリング感をもつことが必要とは思っていません。コーリング感をもたなくてもしっかりと仕事ができる人はいますし、満足を感じるときもあります。働く目的が「家族のため」や「余暇のため」であっても、生き生きと喜びを感じて仕事を行っていける場合もあるでしょう。天職にこだわり過ぎることが、生き生きと働くことへの可能性や職業選択の自由度を狭めてしまうことにつながってはいけません。

私は、コーリングに加え、パーパスについての研究も行っています。パーパスとは、自分の人生の目的、自分が行っている活動の意義といった意味で、対象は家族や余暇なども含まれ職業に限定しません。複数あってもいいし、ライフステージと共に変化しても構わないものです。コーリング感がもてなくても、パーパスを意識できることは、人生の満足感を高め、生き生きと仕事に取り組むことにつながっていきます。
以下に紹介するジョブ・クラフティングやレジャー・クラフティングは、自らの仕事や活動に意義や目的を作り出すための方法です。

▼ジョブ・クラフティング…自分の仕事に対する受け止め方を変えるとともに、主観的・主体的に新たな意味を見出せるように、仕事の再定義や再設計をすること。これによって、仕事に自己を投資することに個人的にも意味を感じられるようになる。

▼レジャー・クラフティング…余暇の時間を活用するなどして、自分にとって意義があると感じる活動に従事する他者を支援したり、趣味やボランティアという形で関わること。余暇活動を充実させることにより、仕事を含めた人生全体の充足感が高められる。

自社だけでなく、人生のパーパスを意識できるキャリア形成支援を


ジョブ・クラフティングは上司をふくめ職場全体で取り組むことでより効果的なものとなります。個人の人生にとって、職業人生は大変大きなものであり、しかも所属する企業やそこで行われる組織・人材開発施策の影響は決して小さくありません。しかし一方で、個人の人生には仕事以外の時間もあり、家族や余暇、ボランティア活動など同時に複数の役割を果たしていることも事実です。したがって、従業員に生き生きと自律的に働いてほしいのであれば、企業が行う施策であっても、自社への帰属意識や自分の職務にパーパスを感じさせるための働きかけだけでなく、人生のパーパスを意識してもらうようなキャリア形成支援も必要でしょう。生き生きと自律的に働くこととは、生き生きと自らの人生を歩むことに等しいと思うからです。

今回私が話したことは全ての働く人に関わる問題です。従業員が生き生きと働けるためのキャリア開発について考えていただくとともに、企業の組織・人材開発に携わる方々ご自身のコーリングやパーパスについても自問していただくきっかけになれば幸いです。

亜細亜大学経営学部 教授

柏木 仁 氏

1990年東北電力株式会社に就職。在籍中の1997-98年にIDCJ(国際開発センター)出向、2000-01年にJICA(国際協力機構)業務に従事。2002年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて研究活動に入り、2007年に博士号取得。2007年産業技術総合研究所ベンチャー開発センター 非常勤研究員。2008年亜細亜大学に移り、現在に至る。専門分野は、キャリア、リーダーシップ、組織行動。
著書に『キャリア論研究』(文眞堂、2016)他がある。

※1  Duffy. R. D. & Sedlacek, W. E. 2010 The salience of a career calling among college students: Exploring group differences and links to religiousness, life meaning, and life satisfaction. The Career Development Quarterly,59:27-41.

※2  Duffy, R. Allan, B. & Dik, B. 2011 The presence of a calling and academic satisfaction: Exploring potential mediators. Journal of Vocational Behavior,79:74-80.

※3  Xie B., Zhou, W., Huang, J.L., & Xia, M. 2017 Using goal facilitation theory to explain the relationships between calling and organization-directed citizenship behavior and job satisfaction. Journal of Vocational Behavior,100:78-87.

※4  Berg, J. M,. Grant, A. M,. & Johnson, V. 2010 When callings are calling: Crafting work and leisure in pursuit of unanswered occupational callings. Organization Science,21(5):973-994.

※5  Gazica, M. W,. Spector, P. E. 2015 A comparison of individuals with unanswered calling to those with no calling at all. Journal of Vocational Behavior,91:1-10.

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