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2021.7Opinion

今必要なのは、組織開発を再定義すること

組織の状態の「見える化」に留まっていてはならない

2000年初頭から、世界的な工業製品の供給過多とIT社会の本格的な到来、そして新興国経済の急成長という大きな潮流に対応するために、日本企業は不断の構造改革を行ってきました。そうした構造改革には、少数のリーダーが、強いリーダーシップを発揮して意思決定をしていくことが必要でした。

しかし今は、社会のあらゆる場面で進行するニューノーマルに自社の事業を最適化させるべく、新たな価値と新たな市場を創造することが求められています。そのためのイノベーションは少数のリーダーがいれば起こせるというものではなく、組織としてのエネルギーが高い状態でなければなりません。

そこでコロナ禍の少し前から、組織開発に取り組む企業が増えてきていました。そして、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、働く場所の分散化と業務のデジタル対応が同時に進展したことで、組織内のコミュニケーション不足や組織としての求心力不足が懸念されるようになり、さらに組織開発への注目が高まっています。

ところで、組織開発というとエンゲージメントサーベイなどによって組織の状態を「見える化」し、問題を把握して何らかの対処をし、またサーベイを行って効果を測定するという1つの「型」があります。「型」があることは分かりやすさになり、取り組みやすさにもつながります。しかしそのために、サーベイのポイントがどれだけ上がったかということが組織開発の目標になってしまうことも、ありがちではないかと思います。もしそんなことがあれば、本末転倒です。では、組織開発の目標とは何でしょうか。

必要なのは、事業への「問い」

もともと企業は、社会の課題解決の方法を提供する存在であり、そこで働く人はその目的に賛同して集まってきた存在です。どんなに大きな企業も、始めは誰かが「この指止まれ」と手を挙げ、そこに人が集まって始まっています。しかし、時間の経過とともに企業は出来上がった1つの「仕組み」になっていきます。そして出来上がった後に企業に参加した人たちにとっては、その仕組みを守ることや、破綻のないように運用に習熟することが大切だという経験を重ねていきます。そこでの慣習に従うことが、そこに所属する人間のあるべき姿だと思いこみやすい条件が揃っていくのです。

組織開発の目標は、まさにその部分を変えることです。そしてそのために必要なのは、「我々は何のために集まっているのか?」という、今自分たちが行っている事業への「問い」ではないかと思っています。

事業への「問い」とは、従来はビジョンやミッションでしたが、最近ではパーパスという形でトップが打ち出すことも多くなりました。例えば、SOMPOホールディングスはグループビジョンを「安心・安全・健康のテーマパーク」とし、ソニーは自社の存在意義を「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」としました。こうした「問い」を起点とした対話が、社内のあちらこちらで生まれていると聞いています。

上司と部下の1on1を導入し、業務の話題だけでなく個人的な話をして心理的距離を縮めるといった取り組みも増えていますが、上下関係を一旦脇に置いて、自社の事業目的や存在理由についての率直な対話も行われていくとよいと思います。上司による動機づけやマネジメントは確かに大切ですが、変化が見通せず、スピードも速い現在の状況に鑑みれば、持続可能な活動とはいえません。人は自分一人では成し遂げられない大きな目的の達成に参加している感覚をもつことができれば、毎日が充実します。その結果、一人ひとりの自律的・自発的な動きが自然に生まれ、上司が働きかけないと部下が動機づけされないという状況は過去のものになる。そんな組織開発が、今大切だと思います。

カスタマーセントリックになっているか、管理主義を手放せているか

今必要な組織開発にはあと2つ、大切な留意点があります。

1つは、「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」です。今、DXの推進は企業において欠かせないものになっています。DXの効果の1つは、顧客との距離を劇的に縮められることです。しかし、日本の多くの大企業は、組織が拡大してきた過程で、自社と顧客の間に代理店など実に多くの関係者が存在し、顧客との距離が開いています。これを変えたい、との願望が組織の中に明確にないままDXに取り組んでも、独りよがりになってしまいます。例えば、「大量のデータが価値を産むはず。だからデータをたくさん集める仕組みをつくる」というような取り組みを多く見聞きしますが、ここには顧客を中心にすえた目的が見えません。顧客に思い入れをもって、顧客にどんな価値を届けたいのか、徹底的に顧客を中心に置いて考えていかなければなりません。これはビジネスモデル上の取り組みのように見えるかもしれませんが、組織のベースにある思想にアプローチしていくという意味で、カスタマーセントリックは組織開発の非常に重要なテーマです。

もう1つは「管理主義を手放す」ことです。今大切なのは、前例がないことに対して取り組み、新しい局面を拓くことであって、計画や目標を管理することではありません。しかし組織には、管理するマネジメントを上司から受け、その名の通り「管理職」になった上司が、無意識のうちに管理主義のスタンスを取ってしまう習慣があります。それを放置すると、組織開発によってそこかしこで生まれてくるであろう、個々人の自発的な行動やリーダーシップ行動を妨げてしまいかねません。組織に染みついている管理主義へ対処する様々な施策を、同時に進めることも極めて重要です。

職場の問題を可視化してそれに対処する組織開発から、事業の目的についての対話、カスタマーセントリック、そして管理主義からの解放をテーマにした組織開発へ転換させること。そして組織体質を不可逆になるまで変容させるためには、それをやり切る覚悟も必要です。それは多くの企業にとって、構造改革の後に残された最も本質的な経営アクションなのです。

株式会社セルム 代表取締役社長
加島禎二

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