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D&Iを阻む3つの思い込み

目に見える多様性だけでは、目的は達成できない

これまでの延長線にはない新しい仕組みや価値は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)から生まれる―。このことを正面から否定する人は、もういないでしょう。D&Iは、SDGsや人権尊重という側面もありますが、それ以上に「新たな創造」を生み出すための土台づくりともいうべき取り組みです。私たちはこの目的こそ、ブレずに見つめていなければなりません。

D&Iの具体的な取り組みとしては、女性活躍、働き方改革、外国籍社員の活躍推進などがあります。今はまだ取り組みは不十分だとしても、このような目に見える多様性は必ず徐々に改善されていくはずです。しかし正直なところ、多様性の向上と業務の生産性の両立が本当にできるのか、そして多様性が高まったことで本当に「創造」が生まれるのだろうか、という懐疑的な気持ちがぬぐい切れていないのではないでしょうか。 これは、私たち自身が何かの思い込みにとらわれているからかもしれない、と感じます。今回はそんなD&Iを阻む思い込みについて考察します。

大切なのは「自分らしさ」というより「存在意義」

D&Iというと、「その人らしさを尊重すること」や「違いを受け入れること」だという言葉をよく聞きます。「個を開放しなくてはいけない」という言葉で説明される場合もあります。ですから私たちは、多様性が高い状態とは「一人ひとりにとって心地よい場」だというイメージをもってしまっているように思います。

しかし多様性が高い集団では、何を提案するにしても、相手の反応が予測できないことが多くなるはずです。今までは必要なかったのに、納得してもらえるストーリーを徹底的に考えなければならなかったり、説明を尽くさねばならなかったりして、むしろストレスは高まります。いわば「気が安まらない」状態になることが一般的です。

また多様性に関連して、「心理的安全性」という概念が今注目されています。心理的に安全な状態とは、「こんなことをいうとバカにされるのではないか」「これをいうと不利益をうけそうだ」といった不安がない状態のことです。決して、「何もいわなくてもわかってもらえる」「何をやっても(何もやらなくても)許してもらえる」ということではありません。

繰り返しになりますが、今私たちがD&Iによって目指しているのは「創造」です。そのために一人ひとりが力を最大に発揮できるように、個別の事情や嗜好に配慮しているのです。身勝手な行動を無条件に許そうとしているのではありません。もちろん一人ひとりの事情に寄り添うことを否定しているのではありません。目的がずれてしまってはいけないということです。 「創造」に向かうD&Iは、個人がこうありたいと思う「世界観(こうなったら世界はもっとよくなる、という自分なりに到達した想いや考え)」をもち、その実現のために組織の力を利用したり、他の人と共創できる状態です。

何かを「創造」する集団は、例外なく一人ひとりが「指示をされたからやるのではなく、自分の想いとしてやりたい」という意志をもっています。存在意義をもとうとしているといい換えてもよいかもしれません。ですからD&Iの推進のためには、一人ひとりが自分の存在意義を自覚する仕掛けが鍵になるでしょう。

これは心の中のことであり、誰かが指示したり、教え込んだりできることではありません。しかし、マネジメント側から一人ひとりに存在意義を考えることを求めることはできます。個人の想いを表明してもらい、集って対話する場をつくることもできます。

また、個人に求めるだけでは一方通行ですし、不公平です。まずマネジメント側が自社の「世界観」を整理し、提示することがそのスタートになります。近年急速に注目を浴びるようになった企業の「パーパス」は、まさにそれなのだと思います。

違いを尊重するのではなく、自分の多様性の一部

多様性を認めるというと、「あなたの考えは私とは違うけれど、あなたの考えも尊重する」ということだと理解している人が多いと思います。しかしそれは間違っています。なぜかというと、「自分の考えは正しいし尊重されるべきもの」「だからあなたの考えも正しいし、尊重されるべき」と考えているからです。自分の考えを変えたくないから、相手の考えを尊重している、といい換えることができるかもしれません。「あなたと私は違うよね」で終わってしまう状態は、無意識のうちに自分を守っているだけです。これは私たちの求めているD&Iではありません。

また、「私の考えは正しいけれど、多様性尊重の時代だからあなたの考え方も尊重する」という捉え方も間違っています。私の考え方が主であなたのものは従、つまりこれも自分の考え方は変えないことを前提にしているからです。組織の主流派の人が主流派でない人の意見に対して、このような態度を取りがちかもしれません。あるいは、役職が上の人が下の人の意見に対して感じることも多いかもしれません。この考え方のままでは、やはり自分の考え方に近い人を優秀だと思ったり、登用したりすることになるでしょう。そうなると性別や働き方、国籍の多様性が高まったとしても、やはり同じような考え方の人が集まることになり、むしろ同質性を強化することになってしまいます。

私たちが必要としているD&Iとは、お互いの違いを尊重するだけではなく、お互いの違いから新しい気づきや学びを得ることです。そもそも、自分自身も組織における多様性の一部分です。お互いに影響を受け合って、自分も変わっていくべき存在です。

さらにいえば、自分の中にも多様性があります。いつも同じ考えに支配されているわけではなく、別の考え方をもつタイミングがあったり、ちょっとしたきっかけで自分の考えに変化が生まれたりしています。そんなとき、自分と違う経験や考え方、価値観をもった相手は、自分を映す鏡になって自分の考えを点検できるはずです。自分はなぜこう考えたのか、その背景にある自身の価値観やそれをもつに至った経験を内省する機会とすることができれば、自分の成長にとっても多様性は武器になります。

日本では、察し合う、空気を読むなど、相手を見て行動することを美徳とする傾向がありますが、多様性を尊重するとなると、きっとこれも変わっていくはずです。ここは変わっていいのだ、と考えておく必要もあるでしょう。

D&Iな環境でこそ、決断できる人材が重要

多様性が高い場であればあるほど、多様な意見が出ます。多様な意見を尊重することはD&Iの基本ですが、様々な意見を皆採用してブレンドすれば素晴らしい意見になるかというと、そんな場合ばかりではありません。どこかで決断ができないと、物事は進んでいきません。つまりD&Iを進めていけばいくほど、決断が重要になります。

決断の形も1つではありません。ディスカッションによって合意点を探っていく場合もありますし、意見を出し尽くしたあとで多数決をすることもあるでしょう。他のアイディアをさらに探すべき場合もあるでしょうし、お互いの意見から学びながらも最後には誰か1人の意見を採用することもあるかもしれません。現実的で目的に合った結論を導き出す決断を行うことが大切です。

その決断を誰が行うかということは、重要な課題になります。今まで通り「役職が上の者が行う」としていては、決断の内容もきっと、今までとそう変わらないでしょう。そればかりかD&Iの機運に期待してその意思決定に参加したメンバーの間に、今までより深い諦めの空気を生んでしまうかもしれません。

決断は本来、「ありたいと思う世界観」を最も明確に描いている人がすべきものです。人の想いは役職に規定されるものではありませんから、役職にこだわらずに決断できる仕組みや社内の空気をつくっていくことが理想です。これは組織の意思決定のルールを変えることでもありますが、この部分を放置しては進んでいけないはずです。もちろん組織のルールの問題だけでなく、決断できる個人の成長にも一緒に取り組むことが必要です。

今回はD&Iを阻む思い込みを3つ指摘させていただきましたが、これらを乗り越えるための具体策に、何か決定的なものがあるわけではありません。

ただ1つだけ明確なのは、組織・人材開発のテーマとして、「ありたいと思う世界観」を磨く機会を、階層を問わず社員に提供していくことが重要であることです。そうした機会を通して、一人ひとりが自分の中に無自覚にある思い込み(アンコンシャス・バイアス)を点検し、「メタ認知力(もう1人の自分が自分の考えや行動を認知できる力)」と「共感力」を磨き続けることが、D&Iの推進に欠かせないことだと考えています。

株式会社セルム 代表取締役社長
加島禎二

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