株式会社セルム(CELM)
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ダイバーシティ・インクルージョンを推進するアプローチとは 

人材を活かすことが最大の経営戦略

弊社、セルムアジアがシンガポールにアジアオフィスを開設してから約5年が経ちました。アジアを中心に各地域・各国の日系企業の組織・人材課題の解決をさまざまなプロジェクトを通じて支援してきました。日系企業は変化への対応スピードが遅いと言われますが、それでも現地法人(以下、「現法」)の経営陣の組織・人材課題の捉え方は、どんどん変わってきました。
例えば最近、アジアで私たちが支援するテーマでは、以下のようなものが増えています。

1.アジア、及び他地域共通の人材の見える化、幹部候補人材の把握等のタレントマネジメント
2.現地ナショナルスタッフを中心にしたイノベーションプロジェクト
3.日本本社の歴史や強み、理念をナショナルスタッフと共有し、理念浸透・融合文化の創造を目指す取り組みこれらのテーマ自体は以前から存在しているものですが、5年前はそれほど高いプライオリティではありませんでした。評価制度や報酬制度等の改定は進行中でしたが、人材の育成の機会や場づくりについては、ほとんど取り組まれていなかったといってよいでしょう。

しかし、優秀な人材が辞めてしまったり競合に引き抜かれてしまい、それによってビジネスの減速を余儀なくされるという状態が続いたため、優秀人材の確保とリテンションは、最も重要な経営課題であるという危機感を持つに至りました。そこで人材の確保とリテンションを目的にして、これらの組織・人材施策への取り組みが始まったのです。

その結果、離職率が下がった、優秀人材を活かしやすくなり、人材獲得もしやすくなったという効果の他に、新規事業が生まれたり、現地チャネルの拡大が一気に進んだりと、ビジネスの成果に直結する効果が生まれ始めました。そして、人材の活用こそビジネスで勝つための戦略そのものだった、という認識に、確実に変わってきています。

アジアは最高の実験場

 そもそもアジアは、多くの民族・国・文化を包含する地域です。新しい取り組みを成功させるために大切だといわれている、異なる能力・価値観が交じり合う多様性の高い地域であり、変化のスピードが速い地域でもあることから、あまり考えすぎずに「まずやってみよう」という風土があります。日本の外にあるので、日本本社にありがちなステークホルダーの多さや組織の壁の厚さなどの障害もありません。新しい取り組みを試す、最高の実験場といえるのではないでしょうか。

例えばある日系産業材メーカーでは、複数の事業部が、伝統的にそれぞれで顧客をもつ体制でビジネスを行っていましたが、顧客からの要望をきっかけに現地では事業部をくくり直しました。また、商品開発は日本のR&D部門で進めるものだったのを、優秀なインド人技術者の「こちらでもできるし、スピードも速い」という意見をきっかけに独自のR&Dセンターも立ち上げました。そのインド人技術者を開発チーフとして権限移譲したところ、スピードが速まったばかりではなく、現地顧客との共創が起きやすくなり、実際に売り上げもハイペースで伸びています。

また、ある日系精密機器メーカーでは、アジア各国に事業開発担当者をおき、さらには本社のR&Dトップと連携して新ビジネスを審議する場を設けました。そしてその審査を通過したプロジェクトには予算をつけ、本社の類似プロジェクトとの協働や外部パートナーとの共創ができる道筋をつくりました。その結果、各国からプロジェクトへの立候補の手があがり、若手の抜擢の機会となったと共に多くの新規事業のネタが提言され始めています。

このようにアジアでどんどん新しい取り組みを試して、日本やその他の地域に取り入れていくことが、日本企業がグローバルを舞台にビジネスで勝つ手段であり、ダイバーシティ・インクルージョンを身につけていくための、最も早い方法なのではないでしょうか。

 

日本企業が身につけるべき3つのポイント

 しかし、そのために日本企業、現法日系企業やマネジメント層が身につけなければならないマネジメント
行動、あるいはスタンスがあります。

 ■日本ベースではなく、その地域ごとに競争力のある人事制度を

アジア現地のスタッフは、成果と報酬は直結すると考えます。役割責任と報酬がセットであり、その成果が厳しく評価されます。したがって、日本企業にありがちな、あいまいな役割期待、年齢がベースの昇進・昇格の仕組みは、アジアの人にとっては違和感や不満につながります。日系企業がアジアで人気がなくなっている大きな原因の一つです。現地の人材を活用するためには、日本本社をベースとした仕組みではなく、その市場・地域でいかに魅力的な人事制度やルールにするかを考えなければ、優秀人材は去っていきます。是非、今一度、現地の優秀人材の目線に立って自社の制度やルールを確認していただきたいと思います。

■「聞く」「教えてもらう」「やってもらう」

多様な民族や文化を包含するアジアでは、お互いに異なることが当然なので、一緒に仕事をする際には、お互いに「聞く」「確認する」ことを普通に行います。これをやらないと、自分が本当にわかっているのか、相手はきちんとわかってくれたのかがわからないからです。現法の日本人マネジャーは、多くの場合その配慮が足りていません。
指導するのではなく、「聞く」「教えてもらう」「やってみてもらう」ということを基本行動にすると、今までとは違う事実が見えてきます。また、聞いて、教えてもらうことを繰り返すことで、ビジネスを一緒に進めていける人材を見出すことができます。そして見出した人材を味方にし、権限移譲して育てていくのは日本人マネジャーの責務です。

■「答え」ではなく、「問い」を求める

「ナショナルスタッフに意見やアイディアを求めたが、大したアイディアはでなかった」という話をお聞きすることもあります。言語の問題もありますが、そんな時はきっと相手も、自分がいい意見やアイディアを出せないことに嫌になり、もう意見やアイディアを言いたくない、求められたくない、と思ってしまっているかもしれません。
いきなり相手に答えを求めるのではなく、議論したい課題に対する「質問」を出してもらうようにすると、議論が活性化しやすくなります。この時、今までとは違う角度からの「問い」をたくさん出してもらうよう求めます。例えば、「この商品の拡大のためには、都市部からいくのか、地方からいくのか」という課題を議論したいときに、直接的な意見を求めるより「そもそも拡大のためにはエリア戦略が本当にいいのか」「そもそもなぜ、それをしたいと思ったのか?」など、「この戦略に対して、なにか引っかかるところを出してほしい」と、これまでと異なる角度の「問い」を出すよう求めると、視点が広がります。でてきた問いに対して、既にこちらに考えがある場合でも、それで説得してしまいたいのを我慢し、問いを多く出してもらうことが大切です。彼らの発想や視点を取り込むことが可能になり、解決策につながる予想外の道筋が見つかることもあります。

グローバル市場で勝つために目指すべきなのは、必ずしもナショナルスタッフを登用しなければいけない、ということだけではありません。最適な人材を最適なポジションにつけることです。ナショナルスタッフでも、日本人でも、どの国の人材でもよく、とにかく必要な役割をこなせる人材が、ふさわしいポジションにつくという状態の実現を目指すのです。そのための人材の厚みと柔軟性をもった企業が、グローバル市場で勝つのだと思います。
私たちは、この変化をアジアから起こし、アジア発で世界を変えていきたいと思っています。

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