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多様性とは、それぞれが存在意義をもってこそ成立する

 

ソニーグループ株式会社
執行役 専務 人事、総務担当 安部 和志氏

ソニーといえば、世界的にも有名な創業者をもち、世界中のライフスタイルを一変させた製品を発明した企業であるなど、様々な条件において異色の企業といえるかもしれない。近年では、日本企業としては突出したダイバーシティな状況を内包したまま解体を噂されるほどの厳しい時期を乗り越え、再生を果たしたことでも注目を浴びている。
それでも今、組織・人事マネジメント領域で焦点としている課題は、人と事業の多様性をいかに価値創造につなげるかだという。
ソニーグループ全体の人事、総務の執行責任者である執行役 専務の安部和志氏にその取り組みの指針と内容、そこに込める想いを伺った。

2021年経営機構改革の目的は、事業の多様性による価値創造を推進すること

加島 本日はソニー様のお話を聞きたい組織、人事マネジメント領域の者を代表して質問をさせていただくつもりでおります。ソニー様は2020年度の決算発表では史上最高益を記録するなど、一時の厳しい状況から再生・復活されています。決算発表より少し遡る2021年4月には、大きな経営機構改革を実行されました。時期から考えて、再生・復活の取り組みの最中から議論し、準備されてきたことだと思います。まず、この経営機構改革の目的についてお伺いできますか。

安部 ソニーは、テクノロジーの力で社会に新しいライフスタイルを提供することに取り組み続けてきました。今はそれを「感動を届ける」と再定義しています。その結果、事業の多様化が進みました。その過程の中では経営的に非常に厳しい時期もありましたが、試行錯誤の結果、ようやく多様な事業それぞれが、自立して成長できる状態になってきたといえるのではないかと思います。これら多様な事業が今後も安定的に価値を生むと同時に、多様性を活かしたソニーならではの価値創造をどう実現できるかについて、ここ数年、経営チームの間で議論が重ねられました。その結果の1つが、今年2021年4月に発表した経営機構改革といえるのではないかと考えます。  

経営機構改革の目的を一言で述べると、ソニーを構成する多様な事業それぞれが同等にソニーの成長を支え、かつ、互いに連携することで、ソニーグループ全体で目指す方向を実現するのに適した経営体制を構築すると同時に、それら各事業の成長を支援し、リードする目的で「ソニーグループ株式会社」が創設された、ということになります。祖業であるエレクトロニクス事業も他の事業と同等の位置づけとしましたが、技術の進化の苗場として要素技術を活用し、ソニーブランドを冠した魅力的な商品という形にして提供し続ける戦略的な意義は大きく、敢えてエレクトロニクス事業が「ソニー株式会社」の名称を引き継ぐことになりました。

加島 経営機構改革のプレスリリースを拝見した時、その名称のつけかたにも多くの想いがこもっているのだろうと感じていました。

安部 様々な議論がありましたが、その中には例えば、「ソニーグループ株式会社」ではなく「ソニーホールディングス株式会社」としては、という案もありました。
本来、われわれが実現したかったことは、資源配分やリスク管理だけに重点を置いたポートフォリオ経営というよりも、多様性からの新たな価値創造にチャレンジし続けることです。例えば先日発表したプレイステーション®5では、ゲームのコンテンツや動作、操作性の進化だけでなく、ゲーム配信プラットフォームであるネットワークの活用もさらに進化させようと試みています。そこで実現される仮想空間で、ゲームだけでなく映画や音楽も楽しんでいただく。そういった感動体験を最大化させるために、映像や音の再現性能をテクノロジーの力でどう進化させるか、など、単独の事業だけでは実現できない価値創造を実現し、支援し、促進する役割を果たしていこうとしています。  

ソニーを構成する個々の事業や人材の自主性を重んじ、それらの総和がソニーの成長をけん引する、これは、創業者の井深大、盛田昭夫の経営思想そのものであり、今に継承され続けています。それを受け継ぐ現CEOの吉田憲一郎自身が、特にそういったビジョンを今回明確に示したこともあり、「ホールディングス」という名称は必ずしも適さないのではないか、ということになりました。

加島 ファイナンス領域に強いといわれる吉田様がそのように考えたということが、またすごいことだと思います。

安部 吉田は、確かに現職の前はCFOでしたし、ファイナンスに強いことは事実ですが、元CFOという捉え方は経営者としての吉田を必ずしも正確に表していないと思います。彼はソニーのグループ会社の一つ、ソネット(現:ソニーネットワークコミュニケーションズ)で約9年間社長を務めましたが、その大半は上場企業の社長として経営の任にあたりました。その後本社に戻ってきた際には、当初はCFOという立場でファイナンスの観点からソニーの再建を託されましたが、当時のCEOである平井からの期待は、当初からファイナンス領域に限らず、当時のソニーについての率直な意見など様々な内容での相談相手になっていたと理解しています。  

また、吉田がCEOに就任した際には、自分(CEO)の役割は、「大きな方向性を定めること」「決めるべきことを決めるべきタイミングで決め、その結果責任を負うこと」、そして「人事(その意思決定を誰に委ねるか)」の3つだと社内に示しています。誰に何を託すか、どう育て、導き、気づかせて、活かすか。その判断によっていかに結果が大きく違ってくるか。経営資源として、財務的な資源の重要性を実感した吉田が、それと同等、あるいはそれ以上に人的資源の重要性と難しさを経験し、経営視点において強く認識していたからこその考え方だと感じます。

PurposeもSonyʼs People Philosophyも、それぞれの存在意義を問う仕掛け

西野 それは、2018年にPurposeを再定義(「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」)されたこととにも関連しているのでしょうか。

安部 個別の自主性を重んじるのがソニーの企業文化とはいっても、決して多様な事業や人がバラバラに動くということではありません。ソニーグループとしての成長を確かなものとするためには、個々の事業の想いや目の前の課題を超える、グループを俯瞰した高い視点に立ち、それぞれが共有、かつ共感できる上位概念があることが非常に重要です。多様な事業を束ねるだけでなく、個々の事業においても、それを構成する社員は、国籍も経歴も社歴も様々です。誰にとってもわかりやすく、共感できる価値観の重要性はますます高まっていますし、ソニーにおいては特にそういえると思います。  

その意味で、われわれが共通して共感できる上位概念とは、世界を「感動」で満たす、それを追求し続けるということです。「感動」というのは、ソニーの厳しい事業状況を大きく変革した、吉田の前任者である平井一夫前会長(現:シニアアドバイザー)がいい始めた言葉です。吉田はそれを継承し、将来にも引き継いでいける形に進化させようとしているのだと思います。  

多様な事業の経営責任者で構成される今の経営チームも、みな、Purposeを信じ、共有しながら結びついた、良いチームだと思います。自分の事業責任領域の利に資さないテーマであっても、それがソニーグループ全体の目的にかなうのであれば、思い切って優先しようという発想に自然になっているように思います。吉田自身が「文化は戦略よりも勝るというのは、まさにこのことだ」と語っているとおりです。  

また吉田は社員に対し、「Purpose(存在意義)に共感できるか、ソニーの中で生きがいと働きがいを合致させられるかを考えてみてください」という投げかけをすることがあります。それはソニーが創業以来引き継いできた、会社と個人の関係を再認識させ、もう一度根づかせるための問いでもあると感じます。これによって、個性豊かなユニークな「個」と、それらを受け入れ、束ねるソニーが両立し続けるのだと思います。

加島 自分は何がしたいのか、何ができるのかということがないと、多様性もあり得ません。今、「企業と個人の関係性を変える」という言葉が流行っていますが、変えようとするより、「自分事として考える」ことを求めていく方が本質的なアプローチであると思います。

安部 同感です。自分事にするためには、自分自身が意思、軸をもって考えないといけない。今年6月に発表したSonyʼs People Philosophy(Special You, Diverse Sony)も同様に、社内で一人ひとりが自らを見つめなおし、考えてみてもらう機会になれば、との願いも含めて定めました。  

これは先日のソニー・グループ・クォータリー・ミーティングで発表しました。この会合は、かつてはマネジメントを対象にした、物理的なイベントとして催されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに完全オンライン化しました。これにより全ての事業、地域の全社員がアクセス可能となり、このメッセージの発表に適した機会となりました。多くの社員から概ね賛同いただける反応だったと理解しています。特に、概念的なメッセージだけでなく、個性豊かな多様性からの価値創造を、あらゆる面(人材、機能、組織、地域)で実行し、体現しているゲーム事業を例に、その人事責任者からミニ・ソニーともいえる具体的な事例を示してもらったことも奏功したように思います。

加島 「自分の場合は何だろう」と考えるためには、焦点となるわかりやすい言葉と同時に具体的なことも見せる必要があるのかもしれません。それに、Sonyʼs People Philosophyの発表は、皆に自分のことを考えることを求めるために、まず自分たち人事が考えていることや目指す世界観を表明したともいえるのではないでしょうか。

多様性の実現こそ、人事の存在意義

安部 多様性は、それぞれの事業体やそれぞれの人が、自分の存在意義や目指すビジョンをもち、その実現に向けて、のびのびと力を発揮することによって、よりその価値を増すと思います。ですから多様性は人事が主導するというより、本質的には当事者である個々人やマネジャー、事業体こそが、主体的に向き合い、取り組むべき課題と捉えています。今はその動きを促進するために、人事が寄り添って並走しながら、支援すべき時期だと考えています。

加島 いくつか具体的な支援の動きを教えていただけますか。

安部 何か圧倒的な効果を発揮する、象徴的な施策といったものが存在するわけではないので、あらゆる施策を数多く多面的に進めています。その一例として、例えば本日インタビューに来ていただいたこの施設、PORTは、単なる研修のための施設でなく、コミュニティや自発的な探索活動の場でもあります。敢えて本社の5Fという気軽に集まれる場所に設け、一つひとつの部屋は中央の広場に向かってガラス張りになっていて、自然に広場に集まって交流が生まれることを目指しています。  

本社5F「PORT」の開放的な空間

本社5F「PORT」の開放的な空間

 

部長クラスの有志のメンバーが、自発的にマネジメントやリーダーシップを学び合う「Leaders Lab」というコミュニティもあり、頻繁にこの場所を利用して進化を続けています。新型コロナウイルスの感染拡大によってPORTは一時閉鎖しましたが、その後の新人研修のオンライン対応を進める中で蓄積したノウハウを活かして、いち早く自発的な学び場およびコミュニティ活動支援をオンラインで再開しました。有志が互いに知見を共有し合い、その後も様々な活動やイベントが展開されていますが、それらに背中を押される形で人事が企画するイベントも増えています。
クリエイティビティとは誰か1人のひらめきによって生まれるものではなく、喧々諤々のプロセスの中から生まれるものでしょう。そんな場が、常にあちらこちらにあることが大事です。人事はその実現を支援します。  

他の例として、創業初期の頃から55年以上にもわたって継続されている、社内募集制度も象徴的な施策ではないかと思います。これは価値創出のための仕組みというだけでなく、自分の意思でチャレンジできる、そういった発想をもつことを奨励して促すという、社員とソニーの対等な関係性を象徴するという意味合いも大きいと考えています。

加島 多様なものに多様に対応するのは大変なことです。ソニー様は従業員数11万人の大企業でもありますし、標準型をつくって管理したくなることはないのでしょうか。

安部 そんな衝動にかられる時はあります。人が集まって組織となり、組織を運営しようとするとやはり管理がしたくなります。それを事業活動が必要としているという側面もあります。  

しかし2人のソニー創業者は、一人ひとりの技術者の想いや力を発揮できる場として「ソニー」をつくりました。そうやって構築され引き継がれてきた経営理念を、私たちは尊重していますし、今もそれに賛同し、憧れて入社した社員によって構成されています。そんな環境で育ちマネジャーとなった人たちは、必ずしも個人の意思にそぐわない人材管理をしたくなった時に、「いや、待て」と思い留まります。「自分は、やりたいことをやらせてもらった」「ちょっとヤンチャもしたけれど上司はサポートしてくれた」という経験が、そうさせるのではないでしょうか。ソニーはその点ではとても恵まれていると思います。  

標準のツールや制度による管理といった手段に頼らずに、個の事業、人材の自主性を尊重しながら、個のアジェンダと経営全体のアジェンダを整合させることは、現実には非常に大変ですし、困難さ、非効率さを伴います。それでも何が大切かを意識しながら、チャレンジし続けることこそ、ソニーらしい価値創造に貢献することですし、人事としての醍醐味であると信じています。

気持ちと行動は一致させなければいけない

安部 先ほど「ソニーは恵まれている」といいましたが、もちろんソニーも例外なく、組織や企業体であることの制約に縛られます。なかなか完全に多様性を実現できるわけではないかもしれません。それでも今、真の意味で、社員と会社が互いに求め合い応え合う、目指す姿に一歩ずつでも近づいていくために、制度や施策を見直しています。
例えば、私たちは「ソニー以外でも力を発揮できるが、今はここにいる理由があってソニーにいる」という人と共に働きたいと思っています。そのため、一定の年齢以上であり、市場における自身の価値向上を目指す社員に向け、アシストファンド(社外転進支援)の制度を整備しています。社外転進支援などという名称は、日本ではネガティブな印象をもたれがちですが、仮に活躍の場を社外に探ることになったとしても、常に市場価値を高め続けることを支援するのは、目指している社員とソニーの関係性を実現するという脈絡に合ったものの1つです。  

社員と会社が対等に求め合い、応え合う、という関係を構築していく上で、できている・できていないに関わらず、やろうとしていることと、現状とを開示する意義と必要性は高いと思っています。  

人材の活用がどのように実行できているかを明確に示していくことも、容易ではありませんが重要なテーマだと考えます。例えば、今回の経営機構改革によって「ソニーグループ」という名称にしたことで、内外から「今後は人材の異動を加速させるということか?」という質問をよく受けます。人材の異動による効果は認めていますが、現実問題としては異動のポストやタイミングなどの問題もあり、数は限られてしまいます。今重視しているのは、潜在的な能力でフルに活かしきれていないポテンシャルを見極め、それが活かされるニーズ、機会を見える化してつなげていくことです。もう少し具体的にいえば、「どこにどんな人がいる」「誰は何ができる」といったことを、HR TechやDXの仕組みで把握できるようにしていきます。多様な事業と社員で構成されるソニーの業容を踏まえると、人材やスキルの見える化と、ビジネス・ニーズを可視化し、それらの情報の会社と社員間での非対称性をなくすことによる可能性は、非常に大きいと考えています。  

一方で、同じ人材の見える化ではありますが、ISO30414等の要請による人的資源情報の開示の動きは、若干気になっています。人材はバリアンスが大きい資源です。見える化は重要ですが、同時に一定の標準化を伴います。人材の持つポテンシャル、パフォーマンスの変動幅を見間違うことなく、どう示していくかは難しい課題だと捉えています。  

さらにいえば、DXなどの仕組みを、より具体的な価値創造につなげていくために、社内募集制度のような本人の自主性だけに頼るのでなく、むしろマネジメントが積極的に情報を活用して、「こんなチャレンジや、新しい取り組みをしてみたらどうだろう」と声をかけ、促していく。そんなデータ活用を推進できるマネジメントを実現していきたい。マネジャーの役割が今後、ますます重要です。そのための人材開発施策もこれからつくっていかなければなりません。

西野 ソニー様との人事施策の打ち合わせでは、打ち合わせのアジェンダはありつつもアジェンダから外れた議論になることがよくあります。そこに自由さや本気度を感じます。その議論の内容も興味深くて楽しいです。

安部 そういっていただけると嬉しく思います。施策はすべて手段です。その手段を実施することが目的化してしまうと、何か硬直化してしまい、新しいアイディアやコンセプトが生まれにくくなります。大切なのは、目的を明確に共有した上で、それに合致した施策を着実に推進していくことです。

のびのびと個性を発揮できることこそ、競争力

安部 もともと事業の成果を左右する、社員のエンゲージメントの高さと、一人ひとりがのびのびと個性を発揮すること(多様性)の相関関係は非常に高いと考え、取り組んできました。社員のエンゲージメントは、重要な経営指標の1つとして位置づけています。  

ソニーでは業績が伸びずに厳しい時期でも、一人ひとりに対して「あなたは何をしたいのか」という問いかけを継続してきました。問いかけられることで、自分の目指す姿、成し遂げたいことを考え続け、考えなければいけないのだという気持ちをもち続けることができたのではないかと思います。
苦しくても前を向いていられるかどうかは、その先を見つめることができるかどうかでしょう。そう考えると、「個」を重視し、多様性を求め続けてきたということは、スタグナント(停滞気味)な状況の中でも伸びるエネルギーになっていたのかもしれません。  

私は海外勤務の時期が長くあり、日本に戻ってきた時に、やはり同質性が高い社会ゆえの違和感を覚えたこともありました。同時に、発揮しきれていない、活かしきれていない日本人の個性は、グローバルに通用する競争力に変換し得ることも強く感じました。オーセンティシティ(本質志向性)や、真理を追究するこだわり、創造力。これらを解き放ったらグローバルでも強い競争力をもつ可能性を感じます。こう言うと、変革しなければならないところまで、このままで良いと正当化し、必要な変革を鈍らせる解釈にもなり得るので注意しなければいけないのですが、自分の個性に自信をもつことは大事なことです。  

日本では、社会全体の安定的な成長のために、雇用を守る代わりに、企業の裁量で個人の意向とは無関係に配置転換を可能とする会社と社員の関係が、長期間続いていました。一定の環境下では意義があった、こういった関係も、今や日本企業と人材の競争力を削ぐことになっていると感じています。「雇用」と「人材配転」がバーターになっている現状から、「エンゲージメント」と「エンプロイアビリティ」の関係に変えていかなければなりません。
これは人事だけでなく、個々人やマネジャー、経営者全員で取り組むべき課題です。一企業だけでなく、産業界や社会全体で取り組むべき課題でもあると思っています。

加島 視点を高く保っていることが、管理主義に陥らない秘訣なのかもしれないとも感じました。本日はありがとうございました。

 

Interviewer/株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二 東京本社  東日本マーケティング部ゼネラルマネジャー 西野 隆是
2021年7月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

 

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