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目指すは多様な人材の活躍の加速。
当事者意識を高め、更にリーダーシップを
発揮できる環境をこれからも作っていく

更新日:2022.08.10

東京海上日動システムズ 常務取締役 小林賢也様
東京海上日動システムズ 人事部 木村有希様
プロフェッショナルタレント 熊平美香様

新たな中期経営計画SHIFTを掲げ、東京海上日動グループのIT・デジタル戦略の中核を担う立場を目指して邁進するシステム会社、東京海上日動システムズ。そのSHIFTを支えるダイバーシティ経営を実現するために、女性活躍推進の取り組みも社内で加速しています。

今年3年目を迎え、セルムとプロフェッショナルタレントである熊平美香氏が伴走しているLearning Triangle Program研修(会社・上司・受講者が三位一体となって実施するプログラム。以下「LTP」)も、その一環。東京海上日動システムズの経営理念であるバリューパートナーとしてのこれからと、LTP研修がもたらす成果について話を聞きました。

── 本日はお集まりいただきありがとうございます。先ずは皆様の自己紹介をお願いできますでしょうか。東京海上日動システムズ常務取締役の小林賢也様からお願いいたします。

小林賢也氏(以下、小林氏):私は東京海上日動システムズの前身である東京海上システム開発に新卒で入り、インフラのエンジニアとしてのキャリアを長く積んできましたが、東京海上と日動火災が2004年に合併する直前に経営企画部に異動し、今日の東京海上日動システムズを設立する仕事に2年ほど携わりました。

現在は常務取締役としてコーポレート部門を見ています。コーポレート部門には経営企画部、GRC支援部、総務部、社内システム部の他、人事部も含まれています。

── ありがとうございます。次に今回実施しているLTP研修を担当されている木村有希様、お願いできますでしょうか?

木村有希氏(以下、木村氏):私は2000年に東京海上日動システムズの前身である東京海上コンピュータサービスに入社しました。社内のヘルプデスクや運用管理、インフラなどの幾つかの部門を経て経営企画部に異動し、4年ほどが経ちましたが6月に人事部へ異動しました。経営企画部では特に社員のやりがい向上の施策や経営計画の社員への浸透、女性活躍推進などのD&Iに関わることを推進して参りました。

── お二人とも人事に特化することなく様々な経験をされていらっしゃるのが印象的です。そうしたご経験が経営戦略や組織が考えていることと、現場の多種多様な人材を繋げるために必要であったことがわかります。では、講師を務める熊平美香様も自己紹介をお願いします。

熊平美香氏(以下、熊平氏):私は昭和女子大学でキャリアカレッジを2014年に立ち上げ、約40社の会員企業の女性の活躍やダイバーシティ&インクルージョンの推進、働き方改革などをご支援させていただいています。また、一般社団法人21世紀学び研究所の代表理事を務めておりまして、今回のプログラムには同研究所で開発したリフレクションや対話、メタ認知などの学習メソッドを取り入れ学んでいただいています。

中期経営計画SHIFTを支える人材育成の重要性

── ありがとうございます。次に御社の会社概要も簡単にお願いできますか?

小林氏:東京海上日動システムズは、東京海上グループのIT会社です。直接的には東京海上日動火災という損害保険会社の100パーセント子会社ですが、我々のミッションは東京海上グループ全体のITを見ることです。実際には、東京海上日動火災のシステムの企画から開発、運用まで行っていて、もう一社、東京海上日動あんしん生命という生命保険会社も同じように手がけていますので、主に国内生損保2社のシステムを我々が100%見ています。

── 経営理念にバリューパートナーという言葉を使用されていらっしゃいます。その背景を教えていただけますでしょうか。

小林氏:日本のユーザー系IT企業には主に2通りの方向性があります。一つは一機能として親会社のシステムを受託し、それを守っていくコストセンター的な役割を担う方向性。もう一つは本社グループだけではなく、他で稼ぐプロフィットセンター、つまりSIer的な方向性です。我々はそのどちらでもない位置付けを目指していて、2004年の設立当初から共に価値を創造するバリューパートナーとしての立場を掲げて、東京海上日動という会社がビジネスで拡大し社会に貢献していくこと、同社の保険ビジネスが発展することに一緒にコミットしていくことを目指しています。

── なるほど。そうしたお立場から、SHIFTと名付けられた中期経営計画もあるのですね。

小林氏:そうです。2014年頃から世の中でデジタル化の必要性が問われ始めましたが、当時からデジタルはITの問題ではなく経営とビジネスの問題だと言われ、一般的にIT部門はなかなか関わることができないという状況でした。ビジネス部門が直接大手のコンサルティング会社や外資系会社を連れてきて、本業とは別のところで少しデジタルをやってみるようなことがもてはやされた時代です。しかしながら我々はバリューパートナーを目指し、デジタルこそグループ中にケイパビリティを持つ必要があると考えて、東京海上グループ内で少しずつ実績をあげることに努めてきました。さらにIT部門が既存システムともきちんと繋げた正攻法なデジタルをやる会社になることを対外的に言うために、社員にもその意志をしっかり浸透させようと新たな中期経営計画にまとめたのがSHIFTです。会社全体が本社のビジネスにコミットして、東京海上日動のデジタルの中核になるところへとSHIFTして行こうというメッセージがこの新中期経営計画SHIFTにはあります。

── なるほど。大変高い志を掲げていらっしゃると実感いたしました。具体的に、SHIFTにはどのような内容が含まれているのでしょうか?

小林氏:SHIFTには3つのことがあります。まずはミッションのSHIFT。これは既存のビジネスを支える領域から、高度化していく領域、さらに新しいビジネスを創造する領域へとSHIFTすることを目指しています。2つ目がスピードSHIFT。世界のスピード感についていくために、これまでの完璧を求め過ぎる考え方を変えて、最小限のものを早く出して早く結果を見て、早く直すというアジリティーにSHIFTしていこうというものです。3つ目が新しいテクノロジーを導入するSHIFTで、この3つをSHIFTしていくには社員と組織も変わらないと実現できませんから、それを支える3つの柱も考えました。1つは社員の成長・育成・確保。2つ目が働き方。3つ目がD&I でダイバーシティーとインクルージョン、女性活躍推進も含まれます。この3つの柱が3つのSHIFTを支え、さらにその下にもう一つ、我々のコアコンピタンスである安定的なITサービスを維持していくことを伝えて3階層になったのが我々のSHIFTの建て付けです。

── 領域を広げてSHIFTしていくにあたり、人や組織の成長が要であると謳われている点が大変ユニークだと思います。そこで熊平さんにお聞きしたいのですが、熊平様の目にシステムズさんはどのような会社として映りましたか?

熊平氏:まずSHIFTという中期経営計画の説明がとても分かりやすく、受講生が経営視点を学ぶ際に大変助けになりました。新しい方向性を皆が理解できるように、シンプルで明快なメッセージに落とし込んで社員に伝えることが出来ている会社はほとんど見たことがありませんでしたので、そこにまず驚きました。また、本来人事は経営の戦略パートナーであるべきですが、世の中はなかなかそうなってはいません。東京海上日動システムズさんでは経営と人事が一緒になって人材育成を行っています。人材育成の狙いとゴールについても皆が同じように認識し人材育成に取り組まれていることに驚きました。さらに人を育成するにあたって、誰にでも不足している部分があります。そうした現状を受け入れ成長していく過程を応援するという基本姿勢をお持ちですので、誰もが前向きに研修に参加することができました。

── 先ほどバリューパートナーというお話もありましたが、経営理念の3つ目に「思いやりと謙虚」と書かれている点も目を引きます。東京海上グループさん全体がビジネスを動かしていく中で、人を大変大切にされていらっしゃるという印象を受けました。

小林氏: バリューパートナーとは「一緒にやろう」ということです。経営理念にもありますが、人との関わり合いが創造的な企業文化を創り、そのためにも人材の育成は非常に大事だと考えています。

女性活躍推進の取り組みの中でのLTPの位置付け

── LTP研修はまさにそうした人材育成のためのプログラムなわけですが、SHIFTが提唱するダイバーシティにおける女性の活躍推進の取り組みの中で、どのように位置付けられているのでしょうか。 LTP研修は皆様がやりたいことを人や組織にきちんと紐づけるという点で、その意識が大変高い取り組みだったように思いますが。

木村氏:ダイバーシティ経営は弊社の付加価値を向上していくために必要不可欠で、会社や組織のあらゆる意思決定の場に女性が参画している状態を皆で目指すのが女性活躍推進の取り組みです。その短期的なゴールとして、まずは女性リーダーのパイプラインを作るために必要な母集団を作っていきながら、女性リーダーを支援する仕組み・仕掛けを構築しています。

LTPはその中でも、課長代理昇格の候補者を選抜して、将来的に役員を展望できる社員を育成していくことを目的としています。やはりそのあたりの層から戦略的に育成していきませんと、将来部長以上の女性割合30%を達成していくのは難しいと思われますので、まずは課長代理昇格候補者の母集団を形成するために行っているのがLTPです。

── 30%という定量目標がありますが、女性管理職の比率だけにとどまらない強い思いを女性活躍推進に込めていると感じています。

小林氏:30%という数字は、単純に我々の会社の男女比が7対3だからであって、女性社員比率と女性管理職比率を同じにしていくことを当社は目指しています。それを阻害している要因があるのであれば、それらを取り除かなくてはなりません。組織的な課題であればそれを解決し、女性社員の意識そのものに起因するのであればそれを解消したい。LTPはそうした問題の解決を促しています。

木村氏:女性がキャリアを形成できている状態というのは「働き続けたいと考えている女性が自身の能力を発揮しながら働き続けていることができている状態」であり、「管理職に占める女性の割合」はあくまでも能力発揮状態を把握するための1つの指標でしかありません。SHIFTで掲げているように会社が変わっていくためには、女性も男性も若い人もシニアの人も活躍して、皆で色々な意見を交換し合い進めていく必要があるのです。

── なるほど。数字ありきでも、女性ありきでもなく、様々な人がそういう立場を目指す中で阻害となっている要因を出来るだけ皆で省き、皆で議論できるような組織にしたいとお考えでいらっしゃるのですね。

当事者意識を覚醒するアクションラーニングプログラム

── 実際に企画されたLTPのコンセプトについてお話しください。

木村氏:2018年頃から女性活躍推進ということで様々な施策を展開していましたが、新中期経営計画のSHIFTが立ち上がる際に、さらにブーストをかけていかなくてはならないと考えました。そこでセルムさんと熊平先生ともご相談しながらLTPを企画したのですが、まず大事なことは受講者に当事者意識を持ってもらうことでした。やはり会社を変えていくには挑戦する文化が必要です。誰かが変えてくれると思っていたら絶対に変わりません。組織の中の様々な課題に対して一人一人が自ら動き、改善していく意識を持って欲しいと考えました。

そこで実際の研修は、本質的な課題設定をできる力をつけることと、自分らしいリーダーシップを発揮する2本立てで企画しました。これは女性社員に限らず社員一人一人に必要なことで、課題を洗い出す時には高い視座、広い視野で様々な視点を獲得し、本質的な課題設定ができるようになって欲しいと思います。

本質的な課題設定ができる力はどういう状態であるかについてはセルムさんとかなり話し合い、当事者意識が芽生えていることに加えて、課題の客観性や妥当性が担保されている状態、つまり経営者が納得する提言ができるかどうか、という点を重視しました。

── プログラムには具体的にどのような内容が組み込まれているのでしょうか?

木村氏:1年間の育成プログラムの中で数回にわたり、課題設定、課題の本質を見極める力とリーダーシップのそれぞれにおいて熊平先生から考え方の演習や講義をしていただきます。平行して受講生は内省しながら、自分の課題のブラッシュアップを行います。その間を取り持つのが我々が社内企画として行っている様々なステークホルダーやキーパーソンとの対話で、ここでは受講者とのディスカッションを実施しています。さらにこのプログラムを推進していくにあたり、直属の上司や斜め上の「サポーター」と呼ばれる人たちが受講生をサポートし、1年間走り続けるのがLTPのプログラム構成です。最後に成果報告会があり、各々が掲げた課題設定を経営陣に報告し、提言する場を設けています。このようにインプットとアウトプットをバランス良く組み込んでいることがLTPの学びのスタイルの特徴です。

── 熊平様にはLTPのプロジェクトの立ち上げから伴走していただいていますが、最初はかなりチャレンジングな内容ではありませんでしたか?

熊平氏:木村さんのご説明にもありましたように、プログラムは基本的にアクションラーニングですので、座学で話を聞くだけで、受講して終わりというようなものではありません。自ら考えてアウトプットしなくてはならないという点で、なかなかハードな難易度の高いプログラムになりました。

リーダーシップや課題解決には人を巻き込んで物事を動かしていくスタンスが必要になりますので、そのためのマインドシフトを仕掛けたり、課題解決に関してはシステム思考やセオリーオブチェンジ、ロジックモデルなどの様々なツールをご紹介しています。様々な目が彼女たちに行き届くように、上司やサポーターの方々にも伴走していただきながら、ご一緒する時間の中で少しでも皆さんに変化が起きるように学習をデザインしてきました。

── 多くの会社が経営と現場を結びつけることに苦戦しています。その点はいかがでしたでしょうか?

木村氏:LTP の大きな特徴の一つは、現場で直面している課題と経営層を繋いでいるという点です。現場で直面する潜在的な課題は現場の人間が一番良く知っているので、LTPの生徒が課題を拾い上げ、極限まで客観性や妥当性を担保した上で経営陣に対して提言をする。そうして提言された課題を経営陣も真摯に受け止めて、提言されたことを即座に改善活動に繋げる。こうしたサイクルが回っていることが変革や挑戦に向けたプロセスの一つであり、まさにSHIFTになるので、会社が目指す姿と我々がこのLTPで実現したいことはリンクしていると思います。

また、会社全体としてSHIFTを浸透させる取り組みに積極的で、現場で理解してもらうための動きが数多くあったことも相互作用を生みました。中期経営計画に関して社長と社員が直接対話する場があり、四半期毎の業務執行報告を社員に公開したりと、様々な全社施策が横で展開していましたので、LTPの受講生も中期経営計画と自分たちの課題を結びつけるのにあまり苦労しなかったと思います。

さらに受講生と経営陣だけではなくて、部長レベルのあらゆる分野のキーパーソンを集めてその人から見たSHIFT、つまり中期経営計画や会社が目指す方向性についての考えを話してもらい、対話する機会も設けています。中には東京海上日動のIT担当役員の方々も含まれていて、高い視座の人たちと対話する場をLTPのプログラムの中に組んでいます。

熊平氏:話を聞きましたというのは良くありますが、対話の場を作っていらっしゃることが素晴らしいと思います。

── それが中期経営計画の共通言語になっていることがすごいですね。多くの会社では、皆立場が違い、なかなか共通言語がなくてどこを目指しているのか分からないということが往々にしてありますので。

熊平氏:やはり経営陣が考え抜かれて、方針として綺麗に、明確にまとめていらっしゃるからだと思います。

LTPがもたらした行動変化と意識変化

── 実際のLTPの成果をマネージメントの方々はどのように感じましたか?

小林氏:直属の上司が一緒に参加する場面もありますし、普段の業務から変化の様子を感じていることでしょう。その上の部長、本部長、役員は最後の発表で一人一人の話を聞き、そこで変化を実感します。最近はLTPネクストというLTPの卒業生を対象にしたものもあり、さらにプラス1年、自分で提言した課題を1年間かけて上司と共に実践し、実現したことを発表してもらうことをしています。提言したら会社が何かしてくれるのではなく、提言したことは自分で実現していかなくてはいけないわけですが、それが素晴らしかったですね。やはり実践しているので、それだけ変わったなという印象を強く持ちました。

── LTPから施策を実施し、事業をSHIFTしていくような実例が現場から出ているということでしょうか。

小林氏:LTPで提示されている課題は小さなチームの中での課題ですから、解決するのもそのチーム内でのことです。そこから全社施策に移ったかというとそういうことではありません。ただ、そうしたチームの中で変えていく実践を積み重ねていくことが大切だと考えています。

── 小さなチームであっても、成長や挑戦を部長や課長含めてしっかり把握できるというサイクルがこのLTPで生まれているという感じでしょうか。

小林氏:会社に対してではなく、自分ごととして返ってくる課題であるのが良いのでしょう。そこから先は当事者意識を持って行動してくれます。それが後々の課長代理や課長としての仕事でもあるので重要です。

── 主体性を育てることが大事だということですね。この施策は3年目を迎えていますが、何か他にも目に見えるような成長や手応え、エピソードなどがあればお聞かせください。

木村氏:LTPの研修効果は、カートパトリックモデルの研修効果測定法を使うと「思考が変わり、行動に変化が起き、それによる成長実感を持てる」というレベル3の深い階層にまで達しています。成果報告会や本人の成長実感、上司からの視点、斜めの関係でありサポーターである課長から見た成長実感、この4つの視点を元にレベル3に達したと判断しています。

実際に受講生に事後アンケートをとったところ、本当に感動する内容でした。少しご紹介すると、「自分のリーダーシップをどう発揮しようか考えるようになりました」とか、「自分はリーダーにはなれないからとずっと逃げていた後ろ向きな考えが薄れました」など、リーダーシップに対する前向きな姿勢が芽生えています。また、「傾聴と価値観を意識することでチームとして何が必要かを考え、判断も素早くなりブレなくなりました」という声もありました。

さらに経営計画や組織目標が身近なものになり、見方が変わったとの声もあり、今までは与えられた案件をスケジュール通りに完遂することだけを考えていたのに対し、その案件を通じて今担当しているシステムをどうしたら改善できるのか、チームや部として最適な内容になっているのかを考えるようになったという感想もありました。

また、「一つ上の立場の人だったらどう考えて行動するかを意識するようになりました」とか、「相手に変わることを求めるのではなくて、自分が変わることを意識するようになりました」など、意識の変化についての記述もありました。今お伝えしたことはほんの一部ですが、たった8ヶ月間の研修でこうした意識や行動の変化が見て取れることはLTPの大きな効果だと思います。

── 社外的な目線から、熊平先生は研修の前後での変化をどのように見ていらっしゃいますか?

熊平氏:最初の段階で主体性を育むことが大事ですので、自分のレンズで見た課題からスタートしてもらいますが、その段階では視座が高くはない状態での課題認識でしかありません。それでもまずは何かおかしいと感じる小さな種から始めて、経営陣による経営の話やSHIFTの話を聞きながら、段々と自分のレンズで見た課題が経営の考え方と関連づけられるようになり繋がっていきます。恐らく経営者の話だけを聞いていても、自分の課題を設定するというプロセスがないと自分の中に中身が入ってこないでしょう。何が真の課題なのか悩みながら経営陣の話を聞くことができるので、結果的に現場の課題感と経営視点が繋がっていきます。

本人たちは悩み考え、色々な人の話を聞きながら思考を深めていくので大変そうですが、最後の経営陣への発表の場で確実に成長したと感じてもらえるように、私もその点に執着してサポートします。ただ人によってレベルも違いますし、扱うテーマの大きさや色々な事情もあって難易度がそれぞれ違ってきますから、最終ゴールは変えていいと言っています。最終的にどういうビジョンがあり、どういう背景があってこの課題が生まれ、どのような解決策があるのかというところまでフルバージョンで行ける人には行っていただきますが、行けない方は最初のビジョンだけを共有するでもいいし、全部考え尽くしたけれど良く分からない、課題解決は難しいという学びを発表してもいいですよと伝えています。とにかく意味のある思考を巡らせていただきたいとの思いで取り組んでいるのですが、結果的に皆さんすごいレベルに達します。

── なるほど。パッケージ的にもここまで目指せということではなく、その人のレベルに応じて目指せるところまでしっかり目指してもらうということですね。

熊平氏:当事者意識を絶対に守ってあげなくてはならないので、そこは譲れません。行くのは本人ですから。

── 本人たちが納得した上で目指せるところを考えるということですね。

熊平氏:小さくても経営レベルで何か話せて、自分の考えをきちんと整理して伝えられると大きな自信になります。そもそもこんなの嫌だな、と思っているようなことが課題なわけで、それが解決できるし、解決するには自分にすべきことがあったと気がつく。最初はぼんやりと他人ごとのように喋っていることが全部自分ごとになっていくと、皆のためにも頑張らなくてはと考えるようになります。

セルムとの協働について。プロフェッショナルに任せる時代

── プログラムの企画から実施まで、御社では熊平さんやセルムをどのように位置付けられているのでしょうか?

木村氏:LTPはLearning Triangle Programの略で、会社と上司と本人のトライアングルで実施する育成プログラムなのですが、実は運営側も、私たちと熊平さん、セルムさんの三位一体で取り組んでいます。システムズとしては会社として目指したい方向性や受講生のニーズを把握し、それに基づいた研修が出来ているかを見定め、受講生と熊平さんを繋ぐ役目や、多角的な視点をインプットするための斜めの繋がりを提供するなどの役割を担っています。さらにプログラム全体を伴走者としてサポートするという、3つの役割があると思っています。

一方、熊平さんは多彩なご経験をお持ちの教育人材開発、組織開発のプロでいらっしゃいますので、そうした観点から見えてくる課題のインプットや気づきを受講生に与えてくださいます。さらに経営と現場を繋ぐために、経営陣が何をどのように考えているかを受講生に対して色々ご指導いただきたく、今回お願いさせていただいたという経緯があります。

セルムさんにはより第三者の視点からこのプログラムの意義や、我々が目指すもっと大きな経営戦略や人事戦略への影響、施策の有効性などを客観視してプログラムを企画していただいています。そうしたそれぞれの役割を皆が本気で全うしていることが、このプログラムが成功している要因ではないでしょうか。

── 全体を描いて走り出したところで、現場で起きたことや、色々な方の意見を考慮して都度皆さんで議論を重ね、修正を入れるような進め方をされていたのでしょうか。

木村氏:まさにそうですね。受講生の表情を見るとあまり理解していないようだから、次のセッションでは少しこういうことを加えてみようか、ですとか。

熊平:研修は生き物なんです。プログラムで学ぶことは同じでも、同じことは起きませんので、リアルな成功のために一緒に作らせていただいている感じです。

木村氏:我々と熊平さん2者だけでは難しいこともあって、セルムさんには人材育成のプロではない私たちの思いや感覚を上手く解釈して熊平先生に繋げていただいています。これがないときっと上手くコミュニケーションが取れずに、お互いが望むものを具現化できなかったりしますので、そこにセルムさんの存在意義があると思っています。

小林氏:やはり人材の育成にはプロフェッショナルにお任せしながら、惜しみなく力を注いでいきたいと我々は考えています。例えばITもこれまで全て自前で作っていましたが、今は世の中のプロフェッショナルを集めてきて上手く組み合わせる時代です。様々な分野でプロフェッショナルの力を使い、丸投げするのではなく自分たちの中に入っていただいて、そこで進めていくことが重要です。

── そうですね。単に丸投げするのではITであっても人事の分野であっても全く上手くいかなくて、きちんと要件定義して自分たちが何をやりたいのかを考え、さらに一緒に考えてくれる存在と仕事するとものすごく鍛えられますね。最後に、この取り組みだけでなくセルムに期待することや、より良い存在になるためのご意見がありましたらお願いいたします。

熊平氏:今回の取り組みでは、追加の要望は感じることは全くありませんが、全般的に企業側がそもそもズレた依頼をする場合が多く、それでは結果が出ないと感じることが多々あります。結果的に期待した成果が上がらないようでは企業にとって残念な投資になりますし、参加した受講生にとっても残念な機会になりますので、そのような研修はゼロにしていただきたいなと思います。その意味で企業側への教育も必要だと感じています。

── あえてお客様の言われたことをというよりは、厳しい視点に立ってアドバイスすることも我々の仕事だということですね。

熊平氏:はい。システムズさんとは全くそのような問題はありませんでしたが、ともすると一般的に研修の価値を下げていくことになりますので。

── 貴重なご意見をありがとうございます。では、システムズさんからも。

木村氏:セルムさんに対して何かというのは無いのですが……。今の熊平さんのお話に繋げますと、様々な研修会社さんとお付き合いしている中でご提案頂く研修内容の視点や範囲が局所的だと感じることがあります。一方セルムさんの場合は、システムズさんはどのような会社になっていきたいですか、どういうところを目指していますか、という大枠から会話を始めてくださいましたので、その結果この企画がブレることがありません。一度大きな視点に立ち、そこから何が必要かというところに落とし込んでいただけたのが良かったです。

── 今のお話から、やはり小さくではなくて大きく、お客様が本質的に何をなさりたいのかを大事にして会話を始めることが大切であると感じました。そこにずっと応えられるようなセルムでいたいと思います。

木村氏:そうですね。女性活躍推進においては「まず女性が変わりましょう」というリードの仕方では上手くいきません。会社の目指す姿をしっかりと見極めて、女性社員を取り巻く環境や制度、そして男性社員、上司、経営を巻き込んで進めて行く必要があります。

── では最後に、小林様のご見解をお聞かせいただけますでしょうか?

小林:では厳しいことを一つ(笑)。正直なことを言うと、セルムさん自身がどのような事業内容の会社なのかが良く分かっていません。

── これはとてもありがたいです(笑)。課題を含めてセルムがどういう立ち位置にいるか、解像度を高めるために本記事を企画していますので、より詳細までよろしくお願いします。

小林:会社としてどういう理念で何をしようとしているのか、もっとセルムさんご自身のことも周りにアピールできる存在だと思っています。送ってくださる冊子がとても良い内容なので大抵読んで皆にも回しているのですが、認知がこれからの課題かな、と。

例えば少し前にD&Iの記事を読みましたが、非常に良く分かりました。我々も今、東京海上グループ全体でD&Iを掲げていますから、あの記事のような内容をインプットしていただく場があると、ものすごく存在感が上がると思います。そこから我々もすべきことが見えてくると思いますから、ぜひそういうお話もしていただければと思います。

── 非常にストレートなご意見をいただき、ありがたいです。セルムはプラットフォーム的なポジショニングの中で、自分たち自体を打ち出していく経験もこれからです。我々も昨年上場して、より立場を明確にして行きたいと考えております。ぜひそのような点も含めて成長し、より良いサービスを提供していく会社になっていきたいと思います。

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