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ヤマトホールディングス株式会社 – 急変する宅配業界に対応するベースとなる 「働き方改革」


ヤマトホールディングス株式会社
上席執行役員 大谷友樹 氏
ダイバーシティ推進室長 石田結香 氏

ヤマトホールディングスが2017年9月に発表した中期経営計画(「KAIKAKU 2019 for NEXT100」)では、「働き方改革」が経営の中心に据えられている。
ヤマトホールディングスといえば、2016年から2017年初頭にかけて、休憩時間の未取得や長時間労働の問題が表面化して注目を集めた。
その直後に発表された中期経営計画であるが、「働き方改革」を経営の中心に据えたのは、社会的インフラ企業として、宅急便ネットワークを持続的に成長させていくには、ここで変革を行わなければならない、という危機感があったからだという。
ヤマトホールディングスの経営課題の設定と、「働き方改革」の具体的な取り組みについて、上席執行役員の大谷氏とダイバーシティ推進室長の石田氏にお話を伺った。

変化するニーズと環境に対応し、
宅急便事業が持続できる構造に変革しなければならない

加島 ヤマトホールディングス様が今回発表された中期経営計画に、「働き方改革を経営の中心に据える」という一文がありました。ここに強いメッセージが込められているように感じます。
まずは、この背景を伺えますか。

 大谷 既にご承知の通り、Eコマースによる荷物量の急激な増加や、宅配へのニーズの多様化が急速に進んでいくことに対し、ヤマトグループでは抜本的な対応策を打つことが遅れてしまいました。
Eコマースの荷物は、今後も増える一方でしょう。また、高齢化に伴う宅配サービスのニーズも拡大するはずです。薬や、もしかしたら再生医療に利用される検体などの輸送ニーズも将来的には出てくるかもしれません。今後、益々宅配ニーズが多様化することは確実です。
しかし、今の宅配ビジネスのあり方では、サステナブルでないことは明らかです。既に社会インフラともいえる宅急便サービスを維持継続するために、宅急便ビジネスのあり方そのものの構造改革が必要です。これに対応できなければ、グループの基盤である宅急便ネットワークが維持できなくなってしまうかもしれない、という危機感を感じています。
また、宅急便ビジネスは、人がいなければお客様に荷物をお届けできないという、労働集約的な部分があります。日本全体の労働人口が減少する中で、人材の確保は根本的な問題です。もちろんロボットやAI等のテクノロジーは導入していきますが、完全に置き換わることはないでしょう。ヤマトグループで働きたい人を増やすことができなければ、人材確保という根本的な問題により、事業の継続ができなくなります。
取り組みはじめたことを大きく捉えると、宅急便ビジネスのあり方についての構造改革です。「働き方改革」という言葉は象徴的な言葉として使っていますが、労働条件を対象にした独立した問題ではなく、構造改革のための取り組み全てに連動し、達成の基盤となる取り組みだと捉えています。


 加島 変化する将来の社会の中でも、メインプレイヤーであり続けようという意思が、この「働き方改革」への取り組みであるのですね。

 大谷 まず始めていることは、経営陣が社員の声をダイレクトに聞く、パネルディスカッションです。全社員の声を聞くことを目標に、全国各地で実施しています。
ネガティブな意見をいただくこともあります。対応の優先順位があるのは申し訳ないのですが、ネガティブなを避けるつもりはありません。まずは、ネガティブな意見の背景や、側面にある状況を把握しようと考えています。
しかし実際には、「この仕事が好きだ」「もっとよくしていこう」といってくれる声の方が圧倒的に多いのです。私たちは、ここをもう一度スタート地点にして、全員経営で構造改革に取り組もうとしています。

「働き方改革」はヤマトグループのDNAを強化するように行う

加島 構造改革の一環として、宅急便運賃の値上げなど、消費者の利便性が一部下がることも行われました。それでも「何度も不在にしてごめんなさい」「今まで我儘を言い過ぎでした」といった反応が多くありました。これは珍しいことです。
ヤマト様の制服を着て、汗をかきながら走り回っている配達員の姿を消費者が見ていたことが、大きく影響していたのだと思います。これは、ヤマト様の企業風土、DNAともいえます。「働き方改革」への取り組みの中で、このDNAをどのようにお考えですか。

大谷 宅急便事業の40年間。これまで不断に行われてきた現場の努力が、これほどお客さまに好意的に受け止められていたことに、ヤマトグループの経営は非常に救われています。お客様にはもちろんですが、コーポレートサイドとしては、本当に現場の社員に感謝しなければなりません。
1つひとつの宅急便の配達の仕方は、配達員の創意工夫以外のなにものでもありません。彼らが今後、宅急便事業をどう捉えるか。例えば、荷物を決められたルール通り配送するという機能だけだと思うか、あるいは地域密着サービスとして捉えるかなどによって、サービスの価値が変わります。
ビジネス街、お年寄りの多いエリアなど、社員が担当するエリアの特徴によって、サービスのあり方、商売が変わるはずです。今回をきっかけにして、こういった知恵と配慮を、社員が世代交代しても受け継いでいけるような風土にしていきたいと思っています。

加島 宅急便の仕組みは、既にITシステムから配達員の携帯に細かく指示が入るように、変わっていたのではないかと思っていました。

大谷 一般的なシステムはもちろん入れていますが、個人情報の部分までは入れていません。個人情報をどう管理するのかというナーバスな問題もありますので行っていなかったのですが、将来は検討すべき事柄になるのかもしれません。ですが、基本的にはサービスはヒューマンなものです。ここにマニュアルはないと思っています。
現場のアイディアが形になり、その取り組みが水平展開される、ということも、現場の社員のモチベーションの1つです。これを変えるつもりはありません。むしろ、そういった取り組みがもっと見える化され、評価される仕組みを、コーポレートサイドがつくることを考えています。
また、経営戦略としてもこの10年程は、機能を中心とした組織体制で新しいサービスの確立を目指してきましたが、今後はお客様のニーズに寄り添うというヤマトグループのDNAに立ち返った戦略を強化します。今回の中計の取り組みの中で、組織体制を機能軸から顧客軸に変更することも、この方針の具体的な現れの1つです。これによってお客様は、1つの窓口への相談で、複数の機能を利用することができるようになります。

加島 「働き方改革」というと、サービスが減退するような印象を受けることもありますが、むしろヤマト様のDNAである「お客様のために」を、強化する方向であるということですね。

大谷 一時的にお客様にご負担をおかけすることが、実際にはいくつかあると思います。その代わり、必ず将来に備えるのだ、と考えています。

 「働き方改革」実現のために設定した、3つの課題

安池 具体的な取り組みについて伺えますか。

石田 「働き方改革」全体では、3つの柱を立てて動いています。
「新しい働き方の実現」「個の力の最大化」、そして「徹底的なオペレーションの効率化」です。
「新しい働き方の実現」とは、働きやすさ向上のための制度構築です。労働時間の抜本的な改善をベースとしつつ、子育て、出産、介護といったライフステージに応じ、かつ一律ではない、自分らしい働き方ができるよう人事制度を整備していきます。また、ヤマトグループ社員の約半数を占めるパート社員が、会社の中でステップアップしていける制度の構築も進めています。
「個の力の最大化」のためには、教育施策をメインとして行います。リーダー層の育成を筆頭に、階層別の教育体制を整備していきます。ここはダイバーシティの本丸といってもいいかもしれません。いかにヤマトグループで働きがいを持っていただけるか。女性や外国人、障がいのある方も一人ひとりが活躍できるような土壌づくりを進めます。
「徹底的なオペレーションの効率化」は、事業寄りの改革です。オープン型宅配便ロッカーでの受け取りや、LINEでの宅急便のお届け日時の確認変更といったオペレーションの効率化、自動運転等のトライアルも始めています。

大谷 制度面が整備されないと進まない話も多いので、急いで制度を改革しなければなりません。人を育てる仕組みについては、今までと同様の改善レベルではなく、1ステージも2ステージも上げなければならないと感じています。

 

 人材育成の個別課題(リーダー/女性/中途・外国人)

安池 構造変革の実行者として、マネージャーやリーダー層が鍵となるはずですが、どのようなリーダー像を描いて
いらっしゃいますか。

石田 これまでは、既に存在している宅急便というシステムを、いかに効率よく正確に動かすかということが、リーダーの最も重要な役割でした。そのため、統率力があり、率先垂範型のマネジメントができることが重要でした。しかし、今後求められるのは、様々な価値観を持つ社員を活かして、1つのチームとして成果を出すマネジメントになります。

大谷 例えばAIなど、今まで経験したことのないものを組み合わせた発想なども必要です。我々としても難しいチャレンジです。そのためにも、若い人達をもっと積極的に登用する必要を感じており、若手の底上げを目的とした教育機会の充実と共に、配属・登用の若返りを行っていきます。

加島 女性の活躍、ということも「働き方改革」の中では重要なポイントとされています。この点についても伺えますか。

石田 ヤマトグループには今、約20万人の社員がいますが、そのうちの約7万5千人は女性です。内訳をみるとパート社員の方が大半を占めますが、女性の雇用創出という意味では、日本で第3位の水準だと思います。
管理職比率という点では約4%ですが、絶対数で見ると女性管理職は約230名、女性社長は4名います。

大谷 女性の活躍は、管理職比率という側面だけでは捉えきれないと思います。結婚しても、出産しても働きやすく、
ここで働くことにやりがいを感じる女性比率が高い会社にしたいと思っています。
今、ヤマト運輸にいる女性社員の多くは、例えば、自宅から自転車で通える地域拠点で1日3~66時間だけ、といった短時間の働き方をしています。短時間勤務であっても、勤務時間内のシフトリーダーのような形でステップアップできる仕組みをつくっていく予定です。

加島 中途採用の方や、外国籍の方など、ヤマト様のロイヤリティが染みついていない方々への対応は、どうお考えですか。

石田 それは目下、人事で取り組んでいるテーマでもあります。基本はやはり、理念の浸透です。

大谷 外国人への対応という部分では、外国人のリーダーが外国人のマネジメントを担当することだと思います。
そしてそのリーダーが、新しく入ったアルバイトさんやパート社員の方を、言葉の壁なく教育していく、ということを考えていきます。
7か国語のマニュアルを作成する、などのツールの整備も進めていますが、その根底に共通してあるのは、この仕事が好きだ、ヤマトグループが好きだ、と言ってくれる社員を増やし、現場の力を高めるということです。すべての施策の目的は、それに尽きるのです。

 

「お客様のために」という理念でリードすることが、力を結集させる

加島 労働時間の適正化は、社員によっては収入が減少するという側面があります。
この問題はどのようにお考えですか。

大谷 これも大変大切な問題です。まずは、お客様に良いサービスを提供し、適正な利益を確保して社員に還元する
こと。そして、評価の指標について、量から質にウェイトを変えていくなどを検討する必要があると考えています。
この「働き方改革」の取り組みは総じて社員からの理解を得ています。
社会的インフラである宅急便事業を今後も維持するために、どこかでリスタートを切らなければならず、労働需給の逼迫やサービスの対価といった問題を見直すタイミングが今であるということを、皆が理解しているのだと認識しています。
そして、事業計画や利益率等ではなく、「働き方をこう変えよう」「活き活き働ける仕組みに変える」といった、現場に目を向けたメッセージを経営が打ち出したこと。そして、宅急便事業はヤマトグループの基幹事業であり、ここが壊れてしまったら他の事業も成り立たない、という関係も明確に打ち出していることも影響していると思います。

加島 それでも個別にみれば、少しは犠牲のような形になってしまう部分もあると思います。
そこで気を付けていらっしゃることは何でしょうか。

大谷 お客様が必要としているものは何か。そして、それに対応するためにはどうすれば良いのかという目的を共有し、一緒に考えていくということです。そうでないと社員の力は結集できませんし、事業構造を変えることなどできないと思っています。具体的な部分は、実はほとんどこれからなのですが、この点については、もうぶれない考え方を持っています。

加島 本日のお話から、構造改革という大きな課題に取り組む覚悟を感じました。

安池 本日はありがとうございました。

 

Interviewer/株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二/ 執行役員 安池 智之
2018年1月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

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