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目指すのは「オーナー」の意識をもって行動する人材が生まれ続ける企業

 

TIS株式会社

 取締役 副社長執行役員 サービス事業統括本部長 岡本  安史氏

執行役員 人事本部 副本部長 兼 人事本部 人事部長 高柳  京子氏

 

事業のトランスフォーメーションを達成するためには、事業の要件から逆算して人材を揃えるべきなのか、人材の変容から事業のトランスフォーメーションに取り組むべきなのか。

目指すゴールは同じでも、この2つのアプローチの違いは、この先の企業のあり方や企業と個人の関係性に大きく影響を及ぼす。

どちらかが正しく、どちらかが間違っているということではないだろう。スピードは重要だし、実現可能性も重要だ。事業の性質や業務の進め方によっても選択すべきアプローチは異なる。しかし最も重視すべきは、どちらのアプローチが、より自社を強くするかということではないだろうか。

その難しい選択に対し、TIS株式会社は人材の変容から取り組むことを選択した。その取り組みの責任者であり、推進者である取締役 副社長執行役員の岡本安史氏と、執行役員 人事本部 副本部長の高柳京子氏にお話を伺った。

今いる仲間と変えていくことこそ、自社の底力になる

加島 TIS様では、取り組まれている構造改革を実現するための第一の課題を、今、一緒に働いている人材のトランスフォーメーションだと定め、動いていらっしゃいます。まず、その課題に定めた背景をお伺いできますか。

岡本 それをご理解いただくためには、システムインテグレーター(以下:SI)業界の変化からご説明する必要があります。

SIという仕事の原型は、受託開発です。顧客企業の窓口は情報システム部で、提示された要件に技術者が1つひとつ個別の対応をして開発し、納品することが仕事でした。90年代後半にはいると、ITベンチャーが隆盛するITバブルが起こります。さらに、企業が情報システム業務をほぼ丸ごと外注する動きが起き、我々は顧客企業のユーザー部門の方々と直接やり取りをするようになります。ユーザー部門の方々にとっては、システムは「動いて当然のもの」です。つくりこむ途上の問題には土地勘がなく、あまり興味もありません。使って不具合があったら、すぐに対応ができないと困ります。その即時の不具合対応に、夜も昼もなく右往左往させられるような経験を重ねました。

お客様が求めるニーズは品質とスピードです。これにはまず、テンプレートをつくり、それを活用して品質の向上・維持やシステムの構築期間を短くすることに取り組みましたが、構築期間に関してはどんなに頑張ってもやはり半年位はかかります。つまり、やり方を根底から変えないと対応できないわけです。

そこで今、社会のニーズを先取りし、お客様が必要としたときにはすぐに使えるサービスを事前につくることを目指しています。これを我々は「サービス化」と呼んでいます。

ここまでは論理的に考えれば、比較的簡単に到達できる結論でした。各業界の皆さんは普通にやっていらっしゃることですし、TISもできないといけないと考えました。2018年に発表した中期経営計画では、目指す構造改革の一環として、そんなサービス事業を生み育てていくことを目的にした、サービス事業統括本部という組織をつくり、私はその責任者となりました。

しかし、そこから悩みました。目的は明らかでも、どんな方法をとればその目的に届くのかがわかりません。周囲にぼやき続けましたし、悩み続けました。

新しいルールやプロセスをつくって、皆がそれに従えばできるのではないかという考え方も1つの方法としてはあると思うのですが、実際には全くできませんでした。人のモノの捉え方、発想の仕方が変わらないとできないのです。

TISの外から、今までとはタイプの異なる人材をズドンと大量に採用することを考えたり、一部は試したりもしたのですが、現場の様子を見て「待てよ」という気持ちが湧いてきました。我々ならではのサービスの提供の仕方というものがありそうだ。今、外部から人材をいれて、その人たちだけが新しいことに取り組んでも、浮いてしまうだけなのではないか。今の我々の中にいる人を変容させていくほうが、たとえスタートが2~3年遅れたとしても、TISとしては底力がつくのではないか、という思いが強くなっていったのです。

私は、業績や事業の話をするのが大好きな人間です。そんな私が人材について語っているのを聞くと、もしかしたら以前から私を知っている方は驚くかもしれません。ですが私は、自分のことをミッションマンだとも思っています。TISのためにはサービス事業をつくらなければならない。サービス事業をつくるためには、今いる人材の変容に取り組まなければならない。それが自分のやるべきミッションだということに、今は腹落ちしてスイッチが入っています。

加島 岡本様ご自身の変容があってこの取り組みを進めていることに、ブレない軸を感じます。

「サービスオーナー」という概念をつくったことからスタート

岡本 しかしそこからもまた悩みました。何をすれば人が変容していくのかがわかりません。

SIという仕事は、技術的には極めて能動的なのですが、仕事のスタイルとしては受動的です。これを能動的なものに変えていかなければなりません。さらにいえば、このビジネスをこう社会の役に立てていくのだ、大きくしていくのだということを自分の意思として、先頭に立って行動する人材が出てこないとダメなのだろうと思いました。

そこで、そんな人材のことを一言で表現する「サービスオーナー(略称:SO)」という名称をつくり、社内の何名かに「君がサービスオーナーになってくれ」と指名しました。それが実質的なスタートになりました。

高柳 指名したといっても、「サービスオーナー」は役職でもなければ、特別な権限が付与されるわけでもありません。それでもすんなり受け入れられたのは、岡本が以前から「圧倒的当事者意識をもって動く人材が必要だ」「自律と自立だ」といっていたのを聞き、皆がなんとなくイメージをもっていたからではないかと思います。

加島 社員に事前にイメージをもっておいてもらうことは、トランスフォーメーションを行おうとする際にはとても大切だと思います。「サービスオーナー」という言葉はどこから思いつかれたのですか。

岡本 私がこのサービス事業統括本部を担当することになった際にシリコンバレーに出張し、現地のベンチャーと意見交換をしたことがあったのですが、彼らの話しぶりや考え方、目の色が皆、「我が事」なのに驚きを感じました。当たり前ですが、「いわれたからつくっています」という感じは微塵もありませんでした。彼らは皆、事業のオーナーなのだな、と感じた記憶が心の中にずっとあり、「よし、サービスオーナーと呼ぼう」となったのです。定義も何もないのに命名し、指名したわけですから、随分乱暴なことだったと思います。

しかしそのうちに、「サービスオーナーの定義をしよう」「育成のために具体的な動きをつくっていこう」といってくる社員が現れてきました。こういう動きを待っていた!という感じでした。そこでサービスオーナーの人材像を再定義し、改めてロールモデルとなってほしい人材を5名指名しました。今、彼らに対して様々な角度からあの手この手の働きかけをして、有効なものを見つけていこうとしている段階です。

中野 研修やワークショップでのTISの皆さんの様子を拝見していると、「協働して何かをつくりあげる」という作業を楽しんでいる空気がありました。組織文化として根付いているように感じます。

岡本 皆、「つくることが好きだ」と思って集まってくれた人材ですし、苦労を共にしてきた仲間です。そんな人たちが楽しそうにしているのはうれしいです。もしかしたら、事業のサービス化を進めることで、そんな「TISらしさ」が失われてしまうのかもしれないと悩んだこともありました。様々なベンダーのソリューション、顧客の様々なハードウェア、ネットワーク等など、これらを全部インテグレートして、問題なくスムーズに動くシステムを作るには高度な技術が必要です。これも失ってはいけないものです。

加島 その中から、どのようにしてサービスオーナーの素質がある人材を見極めるのでしょうか。

岡本 一番最初の人をどう見つけるかというのは、とても難しい話です。しかし何か動きを起こさないと前に進みませんから、この人はこれまでも能動的な動きが多いとか、積極的だ、といったところから選んでいくしかありません。そのうちに彼らが彼らなりの視点をもって、何らかの動きを起こします。それを支援する。厳密に人を見極めるというより少しファジーですが、そうやって連鎖をつくっていくしか方法はなさそうだと思っています。

高柳 今、サービスオーナーとして指名した5名は、それぞれが後輩の育成を始めています。それは役割だからともいえますが、自分のミッションのために必要だ、という認識からの自発的な意味合いの方が強いと考えています。私たち人事はサービスオーナーの下の層をSOジュニア、SOジュニアが育てている人たちをSOベイビーなどと呼んで期待しています。

岡本 例えば彼ら1人ひとりが、それぞれ3人を育成する。その3人が自分の後に続く3人を育成する。もちろんそんな彼ら全員がサービスオーナーにならなくてもいいのです。どの人材にとってもその過程で得た経験は無駄にならないはずです。とにかく人材の連鎖をつくりたい。

そして例えば、「あの事業はAさんがつくったものらしいぞ」「Aさんは今度何をやるんだろう。面白そうだぞ」…などと憧れて、自分も何かしたいという者が続く。そんな気運が社内に起こるようにもしたい。「Aさんみたいな人」くらいの緩さでいいのです。「これだ!」と1つに決めてしまうと、それしかできなくなってしまうようにも思います。

仕上がりイメージは、今いったAさんのような人材がTISインテックグループの中に50人くらいいる姿です。そうなれば、きっとすごいことになるだろうと思います。採用や離職率低下にもつながるでしょうし、きっと世の中から注目される企業にもなっていけるのではないでしょうか。

3年かけて、組織を形づくる制度やルールを変更

高柳 中期経営計画を発表した2018年からこれまでの3年間で、人事としても変化がありました。まず企画本部の中にあった人事部を、人事本部という本部組織にしました。人材資源が重要であるということを明示した形です。

働きやすい環境を整えることを目指し、テレワークやコアなしフレックス制度も早くから導入しました。年功序列を緩和させる方向で、評価制度、報酬制度の改定も行いましたし、役員層から1on1を始め、組織を超えたコミュニケーションを増やしています。また、本人からやりたいことを発信できる手上げ制度も設置しました。ようやく変わるためのベースができてきたのではないかと思っています。

しかし、例えば手上げ制度ができたからといって、どんどん手が上がるかというと、そんなことはありません。それがきちんと活用され、機能するための働きかけはこれからなので、今は道半ば、半ばどころか3分くらいかと思っています。加速していかなければなりません。

人を輩出するための空気をつくる

加島 これから強化したい取り組みについてもお伺いできますか。

高柳 まず、これまでの施策の変更では「社員が皆、自己実現できるように」というメッセージを前面に掲げていました。ただこれは、「会社が自分を自己実現させてくれる」といった受動的なメッセージにも捉えられてしまいます。もっと「働き甲斐」や「貢献」といった意味を自覚できるような、対等なメッセージにしていこうと思っています。

岡本 現場サイドでも、独自に新規事業創出制度やベンチャー社長などを招いて話を聞くイノベーターズカフェ(年2回)など、誰でも参加できる施策を実施しています。これもその啓蒙の場の1つです。

高柳 HRBPの活動も2年前から始めています。事業戦略を人事の側面からフォローするのがHRBPですが、育成の視点で現場人材を見ると「この人にはもっといろいろな経験をさせてあげたい」と思う人材が見える場合があります。今のサービスオーナーのロールモデルやSOジュニアたちも、やはり若い時に様々な経験をしてきた人たちでした。ですから次のステップとしては、HRBPから、育成のための人材のローテーションをどんどん推薦していければと考えています。これまでは、育成目的のローテーションというと、役員や事業部長といった重要ポジションの候補者を育成するために考えることが多かったのですが、もっと現場の業務を引っ張るタレントの育成を目的にするイメージです。そのためにHRBPを増員し、組織化することを計画しています。

また、これから「この人はこの領域のスキルが高い」といったことを何らかの形で認定するような「タレント認定」の仕組みをつくれないかと思っています。認定するスキルや能力は、様々な領域に広げるつもりです。自分の強みがわかることが、その人の自信、ひいては能動性につながるかもしれません。

発想の転換には、刺激も必要です。そのためにはやはり外部の方に入っていただいたり、外部の企業の方々と連携する機会をオープンに広げたりすることも行っていきます。何かがポチャンと入って広がる波紋に反応する人材が、今のTISにはいると思うのです。

岡本 私はここまで3年間の動きを経験してみて、期待感の伝え方やメッセージの出し方、それを途切れなく出していくということがとても大事であることを感じています。私はせっかちな質でもあるので、以前であれば「前にもいったじゃないか」と思ってしまっていたかもしれません。でも、もし自分がメッセージを出すことをやめてしまったら、全体の動きが止まってしまうのではないかという怖さや責任の重さを、今は感じています。

 

どんな方向に進もうが、人を残すことは無駄にならない

加島 最後にあえての質問をさせてください。取り組みを進める途中で、もしかしたら正解は別のところにあるかもしれない、といった迷いや不安を感じることはないのでしょうか。

岡本 それはもう常にあります。何であってもそうでしょう。「きっとこれだ」という意思と信念を強くもって、進んでいくしかありません。

今、私たちは人材の動きを能動的なものに変容させようとしています。そんなことはあり得ないと信じていますが、万が一、その行動が会社にとって必要ではなくなったとしても、それが彼らにとって損になることは絶対にありません。

会社を取り巻く環境が変化していっても、人材育成のノウハウは残りますし、なにより育成した人材が残ります。それは必ず世の中のためになるはずです。ですから信じてやっていくつもりです。

加島・中野 本日は貴重なお話を、ありがとうございました。

 

Interviewer/株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二 東京本社  ゼネラルマネジャー  中野  新悟
2020年11月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

 

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