株式会社セルム(CELM)

お客様からも従業員からも選ばれる企業こそ、持続する企業

 

 

日本生命保険相互会社
人材開発部 人材開発部長 高木 寛和 氏

技術的・社会的変化はますます加速し、企業の変革も急がれている。
しかしその変革は、単なる変化適応ではうまくいかないだろう。
「我々はこの事業を通して、どんな社会・世界を目指しているのか」という、そもそもの目的に基づいたものでなくては、持続可能な経営にはつながらないと、多くの企業が考えはじめている。
そしてその取り組みは、人の力をどう捉えるかによって大きく形が変わるのだろう。
変化が特に激しい業界の1つ、日本生命保険相互会社の人材開発部長の高木寛和氏は、
「我々が託されているのは、お客様の家族への想いや健康への願い。これは、どんなに環境が変化しても変わらないもの」と語る。
同社の組織・人材開発への想いと取り組みについて、お話を伺った。

信頼は、人に対して生まれるもの

加島 私は、現在のような変革に立ち向かうときこそ、変えていくものと変えてはいけないものをきちんと捉えることが大切だと考えています。そこでまず、日本生命様の考える「自社らしさ」、自社のDNAとは何かを伺わせてください。

高木 それはやはり、私たちニッセイが生命保険を取り扱う存在であることを全ての土台にしている、ということだろうと思います。生命保険は20年、30年という長期間の契約です。企業様向けの保険契約では、100年というものもあります。これほどの長期間にわたり、お約束した内容を守り続ける存在だと、お客様に信頼していただけることが何よりも重要です。

そのためには、信頼とはどこから生まれるものかということを、私たち自身が腹落ちして理解していないといけません。個人的なエピソードの引用で恐縮ですが、私が営業の現場にいた頃、ベテランの営業職員さんに連れられてお客様を訪問したことがありました。その職員さんとお客様の間には、保険とは関係のない個人的な相談、それこそ恋愛相談もするような信頼関係があり、それもお母様と娘さん、その娘さんのお子様という三世代のお付き合いがあることに圧倒されました。そして、「この信頼関係はニッセイという企業に対するものではなく、職員さん個人に対するものだ」と感じました。信頼とは、どんな時代であっても人との間にしか生まれない、といわれます。それを土台としているのが、ニッセイのDNAだと思います。 

生命保険はもともと中世ヨーロッパの同業者組合・ギルドの助け合いの仕組みがルーツといわれています。それは「共存共栄」「相互扶助」と呼ぶべき、人として非常に美しい行為だと感じます。「共存共栄」「相互扶助」は、ニッセイの社是でもあります。
私は採用も担当しているのですが、採用の際にも「相互扶助」の精神をもった人材かどうかを大切な基準にしています。トップを狙う、世の中を変えてやりたいという気持ちはもちろん大切ですが、「相互扶助」に価値をおいている人のほうがニッセイを好きになり、長く勤めていただけると思うからです。今の時代、同じ会社で長く働くことが絶対的な善とは思ってはいませんが、長期間にわたる商品を扱っている以上、従業員もこの会社で長く働けるという関係が、会社と個人の間にできていないといけないと思います。

信頼を得るには、一人ひとりが専門性をもった「強い〝個〟」であることが大切

加島 働いている一人ひとりに対しては、〝個〟の強化を求めていると伺っています。これはどのような想いからでしょうか。

高木 〝個〟の強化は、2015年にスタートした「人財価値向上プロジェクト」で打ち出したコンセプトの1つです。
金融業界は大きな変革に直面しています。これまでは規制もあり、各社横並びの様相でした。しかし、近年では様々な規制緩和によるチャネルの複線化や、お客様の価値観の多様化を背景に事業環境も大きく変化しており、生命保険会社にも個性が求められるようになってきたと感じています。個性とは、何が強みなのか、何のプロフェッショナルであるかということとイコールでもあるでしょう。先ほど、信頼を築けるのは人しかないと申し上げました。ですから今後は、一人ひとりが、〝個〟有の強みをもつ人材になっていかなければいけないという危機感から、専門性を高める人材育成に取り組んでいます。

加島 「130年の歴史がある」「事業規模が最大」といったことは、お客様に選ばれる個性とはいえないと考えているということですね。

高木 もちろんそれは大切な個性の1つではあります。しかしそれだけではいけないと思っています。
例えば、遅ればせではありますが、2021年に導入したタレントマネジメントシステムにより、一人ひとりがこれまで積み重ねてきた知識・スキルや目指したいキャリアなどを自分で登録できるようになりました。自分は何を目指すのかということを意識して、上司にも見せる。これによって、会社にとっては人材のスキルを可視化できるメリットがありますし、従業員一人ひとりが上司や関係者に自分の個性や目指すキャリアを表明することで、そこに向かって意識して動いていく風土をつくっていきたいと思っています。特に若手世代は、専門性獲得への自律的な研鑽や、どの道で自分のキャリアを築くかということへの関心を強くもっていると感じています。

ニッセイの土台の上に、専門性を身に着けてもらいたい

高木 一方で、個人に専門性を求めるとなると、「もともと専門性を身に着けている即戦力を採用する方が、効率がいいのではないか」という考え方もできます。現在、当社でも「アクチュアリー」「IT・デジタル」「資産運用」といった一部の分野ではコース別採用を実施しています。しかし生命保険事業に携わっているという使命感に基づいて動ける人材であることは、何よりも大切だと思っています。ですから、当社における人財価値の向上とは、その土台の上に専門性を乗せていくことだと捉えています。
日本生命は国内最大級の機関投資家でもありますから、「もっとニッセイは思い切った運用をすべきではないか」という声を聞くこともあります。しかしそれは、ハイリターンであってもハイリスクであっては駄目だと思うのです。常にお客様とお約束をしているお支払を実行できる状態であることが揺らいではなりません。これをつまらないと思う人もいるでしょう。しかし、私たちの手元にあるお金は、お客様が誰かを想う気持ちのこもったお金なのです。

神田 日本生命の方々に接していると、皆様も同じような想いを持ち、体現されているように感じます。そういった想いを共有するために、どのようなことをされているのでしょうか。

高木 新入社員の導入研修などでは、「我々の仕事は〝聖業〟である」というところから始めます。そして、研修の一環として、最初はお客様対応職務に従事してもらうことにしています。
実はこれは、採用にとってはデメリットがあります。学生から見たら、何かしんどいことだというイメージがあるようです。それでも続けているのは、研修や販売執行など会社で使われるお金や資産運用資金、自分たちの給与は、どんなお金なのかを深く理解してもらいたいからです。座学などで伝えても伝えきれることではありません。ニッセイの暗黙知といっていい部分なのかもしれません。それを一番伝えられるのがお客様に一番近いフロント職務なので、初期の研修期間内で必ず経験してもらっています。

もともと専門性をもっている人にあとから暗黙知を身につけてもらうより、暗黙知が共有できている人材の専門性をより強化していくほうが、会社として、組織として強くなるはずだと考えます。そのための育成体系として、グローバルや資産運用、IT・デジタル、タックスアカウント、法務など、領域ごとに育成担当課を立て、専門人材育成を強化しています。

4つのイクジが組織を強くする

加島 一人ひとりが力を発揮する組織風土については、どのようなお取り組みをされていますか。

高木 色々なことをやっているのですが、キーパーソンは課長クラスの管理職です。管理職の意識・行動変革が組織にもっとも影響を及ぼすと考え、「ニッセイ版イクボス」という取り組みを行っています。4つのイクジ~次世代を育成する「育次」、自らも成長し続ける「育自」、部下のワークライフマネジメントをサポートする「育児」、闊達な組織・風土を作る「育地」~に取り組むのが、イクボスです。

加島 イクボスというのは面白いネーミングですね。

高木 この名前は私が今の部署に就く以前からあるものですが、管理職と呼ぶよりずっと親しみやすくて、私も好きなネーミングです。課長クラスはイクボス。部長・役員層は大ボスと呼んでいます。

イクジを代表する取り組みを3つご紹介します。1つ目は「男性育休100%取得」です。
ニッセイは従業員の9割が女性の会社なので、とりわけ女性の活躍がなくてはならない会社です。女性活躍の推進は、本人の意識を変えるだけでは限界があります。女性を取り巻く周囲の男性や管理職の意識と行動を、根本的に変えることも必要です。部下やメンバーの育児に共感や理解を深くもってあたるためには、実際に育児を経験するのがよいだろうと考え、2013年から「男性育休100%取得」を方針として打ち出しました。出生2年以内の子どもをもつ男性社員には育児休業を取得してもらうように、強く推奨しています。取得しやすいように期間は1週間強なのですが、それでも当初は、「育児休業なんか取れるわけない」「取得しても本当に育児しているかどうかわからない」という声があがることもありました。
私の部署では、男性が育児休業を取得する際には、それを周囲に宣言してもらいます。そして育児休業中に何をやったらよいか、周囲からアドバイスをもらうようにしています。すると、育児に理解のない世の中の男性に文句をいうような勢いで、ものすごくリアルなアドバイスをもらえます。そして復帰の際には、育児奮闘記を部署の皆にメールで共有してもらいます。こういった今までに経験したことのない質のコミュニケーションが生まれるという効果もあります。
現在、ニッセイの男性育休取得率は9年連続100%です。その結果、男性従業員の約3割が育児休業を取ったことになりました。おそらく2030年には約5割が育児休業を取って育児を担ったことのある経験者になります。5割を超えるマジョリティになれば、自然に組織の文化になっていくだろうと期待しています。

2つ目は「イクボス宣言・私の行動指針」です。自分が組織や部署の長として目指すこと、大事にすることを年始に書いて貼りだしています。社長の清水は、「人は力、人が全て」と宣言しています。私は「採用も育成もイノベーション」と書いて貼りだしました。挑戦を歓迎する、挑戦を後押しする、という周囲へのメッセージも込めていますが、皆もそう理解してくれていればよいのですが。

3つ目は「イクボスゼミ」です。効率化にも生産性向上にも、さらには勤務管理にも労務管理にも責任をもつイクボスこそ、支援が必要な存在です。直面する問題も一様ではなく、解決策も1つではありません。ですからイクボス同士をつないでお互いの課題や課題解決のヒントを共有し合ったりすることで、マネジメント力の向上支援を目的にした「イクボスゼミ」を実施しています。新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、当社でもオンラインのイベントが当たり前になりました。そんな変化を活かして、全国に約1,300名いる管理職の内務職員が、それぞれの地域からつながり合えるようにしました。昨年度は3回開催し、1回目は心理的安全性についての講義と意見交換。2回目は社長の清水が登壇し、自身の経験談・失敗談に加え、全国のイクボスから寄せられた質問に清水が回答する対話の場。3回目は多様な人材の多彩な活躍に向けた「ダイバーシティマネジメント」をテーマに、第一線で活躍されている著名な講師をお呼びし、リフレクションの機会を提供しました。毎年少しずつ内容を変えながら、開催しようと思っています。加えて、こうした講演の映像や様々な資格試験対策セミナーなどの研鑽支援プラットフォームとして〝いつでも・どこでも〟視聴できるEラーニング(社内呼称:ニッセイアフタースクールオンライン)も充実させていきます。

リーダー層は、自身の専門性の枠を超えることが必須

加島 組織開発と両輪といえる、経営リーダー育成についてはどのように取り組まれているのでしょうか。

高木 選抜型の次世代リーダー育成研修は、3階層で行っています。
若手~中堅課長層を対象にした「次世代リーダー研修Ⅰ」では、10年先のビジネスリーダーとして、ニッセイという枠に留まらない発想力と行動力を求めます。部長候補層を対象にした「次世代リーダー研修Ⅱ」では、事業構想力・事業化力と共に教養や懐の深さを求めます。経営幹部候補層を対象にした「上級経営幹部研修」では、自身が経営の舵取りをすると仮定しての経営戦略立案を通じて、事業構想力と共に広い視野や世界観によって人を惹きつけるリーダーシップの獲得を目指します。それぞれ、日常業務の延長線上にはない成長のジャンプを求めています。実は私は昨年、企画運営責任者として各種研修を見ているのですが、視点を高くもつことで見える世界の違いのようなものに、私自身も目からウロコが落ちるような刺激を受けました。そして、これは一部のリーダーだけが身につければよいことではないのではないか。もっと手前の層から求めはじめるべきであり、こうした刺激をより多くのイクボスに学んでもらうことで、その下の層の多くの従業員の支援になるのではないかと考えています。まずは一人ひとりが専門性を高め、課長・部長層くらいからは専門性の枠を超え、リーダーとしての資質や経営スキルを伸張していくフェーズに移行していくことが重要であると思います。

学ぶこと、成長することを楽しめる場をつくっていきたい

加島 高木様自身が高めようとされている、ご自身の専門性とは何でしょうか。

高木 もしかしたら今の立場にひっぱられているのかもしれませんが、やはり組織開発の専門性を有する人間になりたいです。ニッセイの中では、「この課題なら高木に相談しよう」と思われるような、頼りにされる力をもちたいと思っています。

今後は、経営方針としてもエンゲージメントやESを高めることに注力することになるはずです。もちろん業績はおろそかにできませんが、従業員にとってニッセイが自分の居場所であり、成長していける場所であることは大切なことです。
私は学生時代、野球部に所属していたのですが、中学のときのチームはとても監督が厳しく、監督に叱られないために試合に勝たなければならないと思っていました。ところが高校のときのチームは自主性を大切にするチームで、努力することがとても楽しくなりました。そんな経験から、人は必要以上のプレッシャーを感じると、力を発揮できないことのほうが多いのではないかと思うようになりました。また社会人になり、仕事を任されたときのほうが、喜びも成長も大きいことを経験しました。
ですから私は、ニッセイという場は、皆が自発的に動くことができる場であり、承認される場であるべきだと思っています。そのためにも、社内からも社外からも学んで成長していける環境をしっかり整えるということを、やっていきたいと思います。

神田 私がいつも感じていた日本生命の社員の方々の、あたたかい雰囲気がどこから生まれているのかが理解できたような気がしました。

加島 「人はプレッシャーに反発する力で成長するものだ。だからプレッシャーを与えるのだ」という考え方ではない方法で、それをやり遂げようと取り組んでいるのだと感じました。本日はありがとうございました。

Interviewer/株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二 
東日本マーケティング部 営業第1グループ 神田 朋子
2022年3月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

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