株式会社セルム(CELM)

自社としての「勝ち」を定義し 「勝ち」のための行動にダブルスタンダードは認めない


株式会社LIXILグループ
執行役副社長
八木洋介 氏

LIXILグループは、2011年4月に建設資材や住宅機器メーカー5社が統合して誕生した企業である。
同年8月には、新しい企業の変革の舵取りのため、当時日本GEのCEOだった藤森義明氏が社長に就任し、「変革のためには人事が重要」として翌年4月に八木洋介氏がLIXILに迎えられた。以来、日本企業の変革の1つの形として注目を集めてきた。特に近年は、相次いで大型の海外M&Aを行うなど、グローバル化の動きを一段と加速させている。
この変革を人事の側面から加速させてきた変革のキーマン、執行役副社長 八木洋介氏に社内変革の取り組みと手応え、人事のプロとしてのリーダーシップについて、お話を伺った。

「勝ち」の定義・リーダーシップ・成功例で変革は動き出す

田口 八木さんがLIXILに移られて3年半が経ちました。これまで進めてこられた変革をどのように総括されますか。

八木 変革に取り組む当初から、私は人事をグローバルで通用するものにしようと取り組んできました。
私の考えでは日本企業の中で最もグローバルで通用しないことをやっているのが人事です。日本では仲良くやっていくことが良しとされ、同質性や公平性を重視します。経験重視という名の下で年功的な人事がまだまだ残っています。
世界ではそうではありません。世界は多様であり、そこに日本流を押し付けることはできません。
しかし、LIXILの社内では比較的早く何をしなければならないかを理解してくれたように思います。「我々は日本だから」といった変な抵抗がなかったところが、この会社のいいところです。
きちんとした船頭がいて、「勝ち」の定義とやり方を示して、いくつかの成功例がでてくると、皆、動き出します。

田口 LIXILにおける「勝ち」とは何でしょうか。

八木 営業利益率8%、売上高3兆円。世界中のお客様に快適で豊かなプロダクトを提供し続けることによって、世界No.1になるということです。
その時々の状況によって「勝ち」の定義がブレてはいけません。目標が定まらなければ戦略を立てられない、これは当たり前のことです。

田口 成功例とは、具体的にはどのようなものですか。

八木 人事に関して言えば、統合前の5社のバラバラだった人事制度を一気に1つにするということができたのです。これはものすごく難しいチャレンジだったと思います。例えばPOD(People & Organization Development)という議論によって人材および組織の能力を把握し、世界中からキータレントを発掘するなどを行うようにしました。こうしたことを着任して2カ月で一気に進めました。今は世界中で定着しています。
やればできるじゃないか、という話で、変えることに対する恐怖心が和らいだと思います。
更に2015年の4月には、大きな組織改編を行いました。LIXILグループを4つのテクノロジー事業と国内事業に再編するという大きなチャレンジです。これはある意味トップダウンで行うことではありますが、我々のような存在が競合に勝っていくためにはこのくらいのチャレンジは必要だ、と皆思うようになっています。これは大きなことです。

正しい事は成功させなければならない。正義は勝たなければならない

田口 それはとても大きな変化だと思います。多くの企業様がマインドチェンジが最も大変だとおっしゃいます。

八木 大変でも「正しいこと」には人は動きやすいものです。理不尽なことと違って力も集中しやすい。
「総論賛成、各論反対」などということを許した瞬間に会社はダメになります。「本音と建前」という言葉もありますが、本音なんて知ったことじゃありません。「やる」と言ったら最後、やるしかないのです。総論や各論、本音と建前とか、そんなダブルスタンダードは許してはいけないのです。

田口 ダブルスタンダードは許さない、ときっぱりおっしゃったわけですね。

八木 おっしゃったというか、そうやっているわけです。ずっと。言ったことをやらない、或いは何かを隠している集団が勝てるわけがありません。LIXILには外部から入った経営陣も多いですが、やるといったことにはコミットする、という人達の集団ですから一枚岩です。
もちろんバックグラウンドが違いますから何が正しいかに迷って躊躇する人もいました。社長の藤森はオープンな人間ですから、本当のことを言うのであれば、よく話を聞きます。ですから、行って直接コミュニケーションをするよう背中を押したこともあります。藤森に正しい情報をインプットすべきですから。
正しい情報をインプットしさえすれば、正しい方向へ向かう、これは私の信念です。
私も言ったことをちゃんとやりましたし、裏表はないことが、社内にも理解されたのでしょう。それで一緒にやっていこうとなってくれた。皆、勝ちに行こうと思っている集団なので、通じたのだと思います。

田口 「勝ちに行く」というのは、当たり前のことのようですが、新鮮に聞こえます。

八木 日本人に比較的多いのが「正しければ負けてもいい」という考え方です。ですが、正しければ勝たなくてはなりません。正義は勝たなければいけないものではありませんか。

「これで勝たなければ雇用だって守れない」くらいの強いメッセージを出して、必ずやり遂げる。そうでないと勝てません。

人材育成は「勝つ」ために行う。個人の能力開発のためではない

田口 日本人は良い人は多いけれど、強さが足りない、と八木さんがおっしゃっている記事を拝見しました。そういった「強さ」をどのように組織の中に植え付けていったのですか。

八木 一番大事にしているのがリーダー育成です。部長層を対象としたELT(Executive Leadership Training)、ミドル層を対象としたSLT(Senior Leadership Training)、中堅層を対象としたJLT(Junior Leadership Training)、そして20代の若手層を対象としたFLT(Fresh Leadership Training)と、全世代をカバーしてリーダー育成をしています。そのプログラムの中に強さやコミットメントの要素を入れ込んでいます。
そこで私はよく、チーターの例を使って話をしています。チーターが狩りをするのは生きていくためです。獲物を獲れなければ死んでしまいます。家族も守れません。だからこそ、必死に狩りをします。我々にとっての狩りとは仕事のことです。狩りの成功とは、仕事における「勝ち」のことです。我々も生きていくために、勝ちを追及しているのです。
我々はLIXILの商品を買っていただけるように、常に新しいプロダクトを作り出し、マーケットに発信し、いいマネジメントをして、なんとか勝っていこうとしています。やらなければ世界の競争の中で、埋もれていってしまうだけです。これは当たり前のことです。こういって話せば皆わかります。

田口 とにかく強いリーダーが引っ張っていく。それが最終的にはLIXIL全体を勝たせていくことに繋がるわけですね。

八木 そうです。毎年250人~300人のリーダー、リーダー候補を育成していますが、その中から1人でも2人でも、経営を引っ張る強いリーダーが育てばいいと思っています。
トレーニングは、個人のケイパビリティを上げるためではなく、勝つ集団にするために行っています。
コアになる人達が育てば組織は勝ちます。ですから、我々のトレーニングは、アサイメントや評価など、様々な場面で経営の中に組み込まれています。

人間的なリーダーでいい

田口 そうして組織のカルチャーを変え、人事も含め各部署で融合を進めてきたわけですね。

八木 「融合」という言葉遣いは少し違います。新しいものをつくってきた、という感覚の方が近いです。
日本国内だけでなく、世界中から一番強い人を見つける。或いは各地域にいるベスト・オブ・ベストの人を見つけ、リーダーを任せています。

田口 強いリーダーは、自分が拠り所とする軸をもっていることが必要です。これは、なかなか育成が難しい部分ですが、どのように取り組まれていますか。

八木 基本的に人間というのは、「何がしたいか」というところから始めるべきです。LIXILのリーダーにはそのように求めています。例えば人事異動にしても、自分は何をしたいのかを考えてもらいます。そうでないと、追い込まれても挫けない、動物的な強さのようなものが出てこないと思います。
人間何十年も生きてくれば、様々な選択をしています。その時々の選択の際に優先したことが、自分の大切にしているものです。リーダーはまず、自分自身の判断軸を自覚しないといけません。
LIXILには共有すべき価値として5つのvalueがあります。これはもともと9つあったvalueを、世界中の人たちとディスカッションしながら新たにつくったものです。これはLIXILの全員がベースとして持っているべき考え方です。ですが、これだけが生き様ではありません。仕事に自分らしいこだわりをもったり、仕事が終わったら幸せな家庭に尽くしたり、趣味や社会とのつながりを持つ。そんな人間らしいリーダーがいいのです。

人事は、人をその気にさせる「言葉力」を磨かなければならない

田口 そのために人事がやるべきことは何でしょうか。

八木 チーターであれば、最も走るのが早く、機敏性がある個体が狩りを成功させる確率が高いでしょう。企業も同じで、仕事のできる人材を上手く活躍させることが、勝率を高くするはずです。そのために人事がやるべきことは、仕事のできる人材を育成すると共に、その人に活躍してもらう組織をつくることです。
できる人材を育成するためには差をつけることが有効です。少し無理めな仕事をやらせても、できる人はアチーブします。そしてアチーブできた人材の活躍の場を広げていくのです。それは若手かもしれませんし、女性や外国人かもしれません。かつての日本企業の「公平性」や「経験主義」ではなく、できる人が活躍する、勝つための組織をつくることも人事の役割です。
更に言えば、人事はそれが実現できる人が担当しなければなりません。
人間は、どうしても変革を恐れたり、変革の途中で先が見えないことに不安になったりします。そんな時には「その気にさせる言葉の力」が必要です。人事は人を変えるだけの「言葉力」も持たなければいけません。

田口 以前に八木さんにお目にかかった際には、手元にメモを準備されて、度々メモを取っていらっしゃる様子を拝見しました。

八木 ある日突然、力のある言葉がでてくるわけではありません。常に学んでいないといけませんし、考えていないといけません。人事の人はもっと勉強すべきでしょう。
また、変革は様々なハードルを乗り越えなければいけませんから、目指す方向に10%でも前進したら、それを素晴らしいと思う強いメンタリティをもつことも大切です。
一番怖いのは、「どれが正しいかわからないから何もしない」こと。そうなれば会社は潰れます。やらなければ必ず死ぬ。だからやるしかないのです。

田口  本日お話をお伺いし、私も奮い立つような気持になりました。どうもありがとうございました。

 

Interviewer/株式会社セルム 常務取締役 田口 佳子
2015.9月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

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