Opinion

創業者のような経営リーダーを
どう育てるか

 何よりも「創業の経験」こそが、創業者のような経営リーダーを育てる

 創業者のような経営リーダーを育てる方法として最も効果的なのは、当たり前のようですが、自身で事業を興すことでしょう。既にある事業の運営や強化は、たとえそれが変革レベルのものであっても、今ある事業への取り組みであり、事業をゼロから興す創業との間には、大きな隔たりがあります。その隔たりは、経験することでしか埋めることが難しいものでしょう。

 では会社を辞めて起業するしかない、と考えるのは早計です。例えば、メーカーであるソニーは、2001年に銀行(「ソニー銀行」)を設立しています。映像や音楽機器の製造が主力であったソニーが、映画やゲームなどのエンターテインメント事業を持つまでは理解できますが、銀行まで創ってしまうのですから、これはまさに創業です。銀行事業の設立時、古い雑居ビルの一室にソニーの社員はたった2~3名で、あとは元銀行マンらを採用して事業をつくり上げていきました。このように、大企業の中でも、「出島(でじま)」のような組織を作り、本体の目が届きにくい離れたところで、外部の人たちを巻き込んで事業を興す方法が有効だと思います。退路を絶って、夢をもち、人を集める。その覚悟と夢に惹かれた人たちが、奇跡を起こしたり、幸運を運んで来たりするのです。こうした創業のダイナミズムは、やってみないとわからないことです。

 冒頭でも述べましたが、創業者の多くが「この製品・サービスは絶対に世の中に必要だ」、或いは「こんな仕組みがあると面白い。皆の役に立つ」という想いをもっています。創業者のような経営リーダーとは、自分のビジネスによって社会をもっと良く変えようという「想い」をもったリーダーです。

 事業の「運営・改善・強化」だけを行うリーダーにとっては、経営理念などあってもなくても、あまり業務に関係がないと思う人も多いと思います。しかし、「創業」を体感したリーダーにとっては、創業の想いの結実である経営理念こそ全ての源、と思えるくらい大事だとわかるはずです。

 「想い」は様々なハードルを飛び越えさせる

 青臭いようですが、創業の際のような「想い」は人を正しくしますし、人を強くもします。「想い」は国籍や性別、年齢もハードルではなくしてしまいます。事実、創業者には、高齢であっても瑞々しいリーダーシップを発揮し続ける経営リーダーがたくさんいます。

 今号にご登場いただいた日本電産の永守会長もその一人ですし(※)、リチウムイオン蓄電池メーカー、エリーパワーの吉田社長は、一度銀行の副頭取を引退した後に電気自動車に出会い、69歳で起業し、80歳の今も未来を見据えたリーダーシップを発揮していらっしゃいます。

 「想い」、あるいは想いや理念を教育する「DNA教育」といった言葉を聞くと、それはもともと生まれもっている素養であり、教育で身につけるものなのか、という印象があるかもしれません。しかし、生物学の世界では特定のDNAが発現するかどうかは、そのDNAを刺激する環境があるかどうかで決まることがわかっており、その環境とDNAの発現の関係を明らかにする研究が進んでいます。人材開発の世界でも同じだと思います。

 大きな転換点である今は、まさに、自らの「想い」を経営理念や創業精神と共鳴させる創業者のような経営リーダーが育つ好機なのです。

 ※この原稿は「CELM BELIEF vol.19」に掲載されたものです

2017年11月
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