Opinion

創業者のような経営リーダーを
どう育てるか

経営理念の裏にある、自社の存在理由を深く考える

多くの企業で、経営理念の教育はこれまでも行われてきています。しかし、創業精神を学び、企業家精神を育てるためには、出来上がった経営理念の理解だけでなく、経営理念の裏にある、その企業の「存在理由」について深く考えてもらうことが重要です。経営理念とは、その企業がなぜ存在するのか、という存在理由を突き詰めたものだからです。

 企業の存在理由は、創業者の生い立ちや人間性、創業時の時代背景に深く関連しているため、それらを深く知らないと本当には理解できません。

 例えば、ホンダの経営理念は「人間尊重」「三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)」です。小さな修理工場から身を起こした本田宗一郎氏は自身の生い立ちや経験から、お客様が喜ぶ120%の良品を作り、販売することが、それに関わる全ての人間の最高の喜びだという信念を持つに至りました。つまりホンダという会社は人間の喜びを追求することを目的として作られた企業であり、そのためのモビリティ製品を作っている会社なのです。ホンダの経営理念から、自社の存在理由を学び取るのであれば、「人の喜び」について研究しなければなりません。喜びにこだわり、人が喜ぶということはどういうことなのかを突き詰めることこそが、ホンダの独自性につながっているのです。すなわち、経営理念を学ぶことは企業人としての世界観を磨くということなのです。世の中が変わっていく中で、自社の存在理由について深く考え、再定義していくことが創業の精神を深く考えるということでもあります。

 周囲に興味を抱かせるように経営理念を説明できる人は、皆、創業者の人間像や創業時のストーリーを知っています。何より、創業時のリーダーの姿勢を知り、そこから刺激をうけて、自分の勇気を奮い立たせることができる人材が、自社の経営を任せられる人材の必要条件だと思うのです。

自分が経験していない事業や業務を追体験する

 経営リーダーには、全社的視点が求められ、自分が経験していない事業や業務についてもその本質を理解していなければなりません。様々な事業を直接経験できることが一番良いのかもしれませんが、人事異動で経験できる部署は、多くても3~4か所が限界で、実際問題として自分が経験出来る部署だけで全社的な視野を身につけることはほとんど不可能です。経験学習でカバーできる領域には限界があるのだという前提に立って、現実的な方法を採用すべきです。

 具体的には、自社のエポックメイキングな出来事について、ケーススタディ教材を作成し、そのストーリーを詳しく追いかけるような自社ケースプログラムが有効です。

 どの事業や関連会社がそれぞれどんな歴史を持っているのか、どんな出来事や経営判断で今の形になっているのか、今後はどんな方向に行くべきなのか。こうした議論を繰り返すことで、自分の会社の全体像や輪郭がはっきりと見えてくるはずです。

 企業の中では、よく「社長の出身母体は○○だから、今回の判断は…」といった話を聞くことがあります。これは出身母体で培った視野や視点だけで判断を行ってしまうことが、よくあるということではないでしょうか。また、日本企業では複数の部署が集まって経営計画などを発表する会議で、発表内容に他部署から突っ込んだ質問が発せられることはほとんどないでしょう。これは遠慮しているのではなく、わからないのだと思います。ですから、部門や組織の壁を越えた場などを設けても、リーダー達が切磋琢磨し合う場にはなかなかならないのです。

 今多くの企業で、「ONE◯◯◯(ONEチーム化)」という標語で、全社で一つになってお客様に対応しよう、部門や事業の間にチャンスが眠っている、という組織革新活動が盛んです。こうした活動を後押しする意味でも、経営リーダー候補が、自分は直接経験していないグループ企業や、多くの事業の歴史と概要について学ぶ、学ぶというより追体験するような機会を持つことは極めて有効です。

 私自身の経験で僭越ですが、私が弊社グループの代表を引き継いだ際、関係会社の財務諸表を見ても、事業報告を聞いても、はじめはなかなかピンときませんでした。そこで、ここまでの数年間の事業のストーリーや、今のビジネスモデルを詳しく語ってもらったり、幹部以外の社員や同業の友人らに話を聞いてみました。すると、「なぜその時にそのような経営判断をしたのか」「なぜそれがKPIなのか」「どのような成長スピードを目指すべきなのか」という、自分なりの見立てが少しずつできていき、その結果、以前より深いレベルでコミュニケーションできるようになっていきました。自分が経験していない業務や事業の追体験をすることは、経営リーダー育成にとって、大きな効用があると感じています。

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