転換点を乗り越えるために必要な
人材開発の3つの取り組み

株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二

「自社には改革ができるような人材はいない」「現場に活力がない」「社員に危機感が乏しい」

 こうした声を企業トップの方からよく聞きます。足元の業績が良い今のうちに、将来のために改革を進めておきたい、実力を高めておきたい、というトップの焦りの気持ちが、そう言わせているのだと思います。
一方、現場からは、一言で言えば「今を守るだけで精一杯」という気持ちの言葉が聞こえてきます。

 そんな状況を証明する数字があります。米国ギャラップ社の調査(※1)では、日本では「熱意あふれる社員」がわずか6%。残念ながら世界平均(13%)の半分以下という状況です。

 確かに、組織が大きければ大きいほど、その組織の構成員一人ひとりにとっては全体を見渡しにくくなります。そのため「自分の領域の仕事を懸命にこなす」という行動になりがちではあります。それに加えて、上司の一声で突然に(あるいは納得できない)異動などがあると、社員は「自分は会社の一部品に過ぎない」と考えてしまいがちです。

 しかし、だからといって「自社には改革ができるような人材はいない」と結論付けるのは間違いです。組織が大きければ大きいほど、その企業には多くの人材がいます。優れた人材が応募し、その中でも厳選して優秀な人材を採用しているはずです。そうした人材を丁寧に探して、活躍させる努力を十分しないままに、「人材がいない」と嘆いているように感じます。そして、外部人材を登用することが変革を起こす最高の方法だと考えるならば、安易すぎるようにも見えます。

 どんな状況にあってもなお、企業は迫り来る転換点を乗り越えていかなければなりません。
そのために有効な人材開発の取り組みを3つ、提案させていただきます。

 社内の壁を越えた「コミュニティ」によって、社員の視野を広げる

 最近注目しているのが、企業の中のコミュニティの動きです。ここでいうコミュニティとは、いわゆる地域共同体等のことではなく、同じ興味や関心をもった人たちの集団、あるいはそんな人たちのネットワークのことをさします。例えば「One Panasonic(※2)」は、パナソニックの社員の有志による、職場を離れて話し合うことのできる、何かを変えたいという志をもった仲間の自主的なコミュニティです。このコミュニティでは結成にあたり、参加者の気持ちを一つにするために経営トップを巻き込んでいます。また、若手と役員クラスは新しいことに対して、比較的すぐに「よし!やるぞ!」という話になりますが、実際に組織を回していかなければならないミドル層は、なかなかそうはなりません。そのため、ミドル層こそ、この活動に参加してもらうべきと考え、コミュニ
ティのイベントでは、ミドル層が参加したくなるようなテーマも意識して企画しているそうです。

 大企業が起こすべきムーブメントの形として、このようなコミュニティはあるべき形の1つではないでしょうか。経営トップは、若手社員自らがエネルギーを発揮しようとする行動をきっと嬉しく思い、必ず応援してくれるはずです。そんな親心のような気持を活かしつつ、大企業がもつリソースの豊富さという強みを活かして、夢を語り合う場を支援し、拡げるのです。このようなコミュニティは、社内の壁を壊したり、社員の視野を拡げることに
大きな効果をもたらすはずです。

 また、私は以前、自動車メーカーの開発部門で、新車種の開発総責任者のような、大きな仕事を任される
プロジェクトリーダーの行動パターンを分析する仕事をしたことがあります。彼らへのインタビューを通して発見できた共通項は、仕事と直接には関係のない「コミュニティ」に参加していることでした。中には、地元の高校生のコミュニティに参加している人もいました。

 そうした仕事の枠を超えたコミュニティの効用は、自分や自社の事業を客観視できることです。自分とは違う角度で社会と会社、事業に向き合っている人とのコミュニケーションや共同作業を通じて、自分が知らず知らずのうちにかけている「(モノの見方の)メガネ」の存在に気づきます。そして、そのメガネを外してみると、今まで見ていたものが違うもののように見えたり、自分のことがわかったりします。最終的には、自らはどんな目的や意義を持って働きたいのか、どう社会に貢献したいのか、という社会的使命感を育むためのチャンスになっていくのです。社会的使命感は、今、事業に変革を起こすリーダーにとって必要不可欠なものです。

※1   2017.5.27付「日本経済新聞」より引用
※2  参考記事:http://www.ashita-lab.jp/special/5935/

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