「よい経営」「強い事業」「優れたリーダー」「しなやかな組織」をつくるために、取り組むべき人材課題とは

弊社セルムは、18年以上にわたり日本のトップ企業様の人材開発をお手伝いしてきました。その間の多くの経営陣・リーダーの方のインタビューを通じて、また研修という密度の濃い時間の中で展開される参加者の熱い想いを目のあたりにするにつけ、人材開発の現場で発するエネルギーを、経営によりダイレクトに活かすため、人材開発はもっと経営と一体になって動くべきではないかと感じてきました。「よい経営」「強い事業」「優れたリーダー」「しなやかな組織」をつくるために人材開発をどのように捉え直していくべきか、経営と人材開発をもっとつなげるために今必要な取り組みを、ご一緒に考えたいと思います。

株式会社セルム 代表取締役社長 加島禎二

課題 よい経営と人材開発

「よい経営」とは一言でいえば、理念を重視する経営であるといえます。これまでもグローバル優良企業と賞賛される企業は、自社の目的や使命を経営の軸に据えてきました。
さらに現在は、経営をとりまく環境変化のスピードが早くなり、複雑さ、多様さも増しています。これまでの経験則や合理性から分析的に経営目標を導き出すことが難しくなり、自社の目指す姿を、自分達の意思で選ばなければなりません。そのため、「なぜそれを目指すのか」という部分が非常に大切なのです。

理念を体現するリーダーの人垣をつくる

例えば、「山に登る」という目標があるとします。そこで、Aという山に登る計画を立てたとします。しかし、他のメンバーからは「なぜ登る山はAなのか」「他にB山もC山もあるのではないか」、さらには「山でなくて海でもいいのではないか」など、複数の選択肢が投げかけられ、実行のパワーが高まらないとします。そんな時には、どれがベターかと分析をしても結論はでません。ゴールが定まっておらず、色々なゴールを描き得る今だからこそ、「何を目指すのか」「何故それを目指すのか」という理念が、いつに増して重要なのです。
理念を実現するための鍵となるのは「人」です。理念経営の実現とは、理念と向き合って自分の仕事や目標に照らし合わせながら、「なぜ」を考え、迷い、悩みながらも前に進もうとする人材の「人垣」をつくることです。鍵となるのは組織を動かすコアとなるリーダーの行動です。「経営理念を判断基準にして行動せよ」といわれても、リーダーの日々の言動や振る舞いからそれを感じなければ、メンバーには伝わりません。理念を大事にして行動しているリーダーを育成しなければ、理念経営はできないと思います。
一般に理念浸透施策というと、自社の歴史の理解、象徴的な出来事の追体験といったことを集合研修で行うことが多くあります。しかしそれだけで終わってしまっては勿体ないと思います。自分の担当事業や部門の使命、事業目的など、経営理念に照らして徹底的に考える。自分の行動や組織の課題も経営理念と照らし合わせて、何度も「なぜ」を問いかけ、行動することを求める必要があります。

理念を価値基準にして行動する仕組みをつくる

経営理念は、日々の業務の中で「活用」されなければいけません。
理念重視の経営を実践するグローバル企業、例えばジョンソン・エンド・ジョンソンでは、世界のどの地域でも行える理念教育のノウハウやツールが整備されていますし、理念の実践行動が人事評価に組み込まれています。また、経営陣が定期的にクレドミーティングを行い、理念と経営戦略の結びつきについて対話し、自分の想いを増幅させ、組織の軸をつくっています。
欧米企業に比べてボトムアップ志向の強い日本企業において、理念の「活用」方法として私がおすすめしたいのは、部門単位で「Our Belief(我々の信念)」をつくることです。部門のリーダーがまずたたき台を提示し、コアな人材とチームで練り上げていき、最後に全員に意見をもらって完成させ、ペーパーに落とします。「勝手に理念をつくっていいの?」と思われるかもしれませんが、理念とは存在意義ですから、自分たちがしっくりくる、信じられる、そして日常の判断や意思決定に使えるものを自分たちでつくるほうがいいと思います。もちろん会社の理念との整合性はきちんと考えなくてはいけませんが、理念経営とは結局、「自分たちは何を成し遂げたいのか」「それはなぜか」をいつも考えながら、想いを一つにして組織の目標を達成していく、そうした人材の集合体による経営だと思います。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4