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メンバーの理解とコミュニケーションを深くすることが 「働き方改革」を推進する力になる

更新日:2018.01.04

清水建設株式会社
河田 孝志氏、樋口 義弘氏、齊藤 武文氏

建設業界は他業界の平均より、年間で約300時間も実労働時間が多いという統計がある。
また、ほとんどの官公庁や産業分野では既に定着している週休2日制もまだ達成できていないという業界特性をもつ建設業界が、国をあげての「働き方改革」を追い風に、2021年度末までに全現場での4週8閉所以上の実現という、待ったなしの長時間労働の是正に取り組み始めた。
清水建設はこの懸案に対し、部門ごとに業務の特性を踏まえた取り組みをスタートさせており、土木技術本部ではまずはパイロット部署での取り組みから、実効ある方法論の立案と課題の洗い出しを行っている。
この取り組みを推進する、土木技術本部長 河田 孝志氏、土木技術本部 副本部長 樋口 義弘氏、土木総本部 土木企画室 副室長 齊藤 武文氏に、その概要と手ごたえ、今後への展望についてお話を伺った。

長時間労働を是正できないと建設業界が衰退してしまう

加島 清水建設様にとって、「働き方改革」とはどのような課題なのでしょうか。

齊藤 建設業界にとって、担い手となる人材を確保することは、喫緊の課題です。建設業就業者の約34%が55歳以上であり、今後10年間でかなりの人数が引退します。今のままでは建設業の生産体制が破綻し、使命である社会資本の整備が困難になるという危機感があります。若い人材が建設業界を敬遠する要因となっている長時間労働を是正しなければ、根本的な解決はないでしょう。

河田 当社社長の井上は、日建連(日本建設業連合会)の「週休2日推進本部」の本部長でもあります。これは、建設業界全体で取り組まなければならない課題であり、清水建設が業界を牽引する取り組みをするのだ、と強く思っています。

齊藤 「週休2日制」は、他産業では既に常識になっていることかもしれませんが、建設業界では長い間実現できないでいました。まず、お客様の「早く建物を完成してほしい」という要望に応えることが最優先であり、これまでの工期短縮という生産性向上の成果は、引き渡しの早期化という形でお客様に還元していました。それに対して「働き方改革」では、「休ませてほしい」といわなければなりません。また、ある建設現場は休んで、別の現場は休まなかったら、お金を稼ぎたい技能労働者は、休まない現場に流れていってしまうでしょう。
業界全体で足並みを揃えないと、実現できない環境があるのです。

樋口 また、工期が延びれば現場経費など、増えるコストもあります。「働き方改革」が肯定される世の中の風潮や、政府のバックアップなどもあり、建設業以外の業界でも商売を削るような判断もされるようになってきました。そんな今だから、建設業界はこの課題に取り組めるともいえます。この追い風を力にして進めていきたいと思います。

齊藤 現場でいえば4週8閉所以上、個人ベースでいえば4週8休+祝祭日休+年休取得の増加。これを2021年度末までに達成することが、我々の取り組み達成の期限でもあり、業界全体として設定した期限でもあります。休日数だけでなく、時間外労働の時間も削減できなければ長時間労働の是正になりません。また、仕事の質や量を犠牲にするわけにはいきませんので、長時間労働の是正と共に生産性の向上も必須で、この2本立てで取り組んでいます。

 ロードマップは、パイロット部署から全社へ、そして協力事業者へ

河田 長時間労働の是正を最も行いたいのは、建設の現場です。ですが、現場は関係者も多く、既に約束している工期と確保できている人員数など、厳しい条件下で進めていますので、まずは本社の中で取り組みを行い、経験値を積みながら広げていくべきだろうと考えました。 そこで、我々土木技術本部の一部署をパイロット部署にして、取り組みを始めることにしました。

樋口 土木技術本部というのは、土木総本部という土木全体の組織の中で、仕事の受注のための提案書の作成や現場の技術的なコンサルティングなどを行う、スタッフ的な部門です。建設現場に比べれば、関係者が少ないことから、実は以前から「水曜日はノー残業デー」という取り組みを行っていました。

河田 初めの頃は、「できなかった業務のしわ寄せが他の日に来るだけ」といった声があり、そうなのかなぁと思うこともありました。ですが、「水曜日は早く帰宅するので、妻が喜んでいる」という声を聞いたときは、実施して本当に良かったと実感しました。
そのうちに、水曜日はメンバーが連れだってゴルフの打ちっぱなしを楽しむようになったり、マラソンを趣味にするメンバーは「週末だけでなく、水曜日にも質の高い練習ができたので記録が伸びた」などといっています。皆が楽しく働けることが一番です。

樋口 現場が極めて繁忙な中で、土木技術本部だけが早く帰宅することで、現場との一体感が損なわれるという懸念もありましたが、「働き方改革」という目的を前に、そんなことを言っていられません。
パイロット部署の取り組みの成果を1つの突破口にして、土木技術本部全体の、そして全社の働き方改革につなげていこうと思っています。

取り組みの実効性を自分達が把握するために、KPIを設定する

中野 現在のお取り組みについて、伺えますか。

樋口 取り組みをスタートするにあたって、まず本部内で検討しました。
しかし、我々の中だけでは、発想に限界がありました。そこでセルムさんに相談したわけですが、まずは取り組みの進展を把握するための、働き方KPI指標を作成しました。

算出式の、分母の要素は労働時間です。「残業時間」や「ノー残業デーの実施率」などの要素を指標化して算出します。分子の要素は、仕事のアウトプットです。個人レベルとしては、「働き方改革の施策実施スキルの充足度」「モチベーションのレベル」等。組織レベルでは、「提案書評価点1位獲得率」「技術に起因する不具合件数」等を指標化して算出します。分母をできるだけ減らし、分子を大きくすることが基本的な方向です。

ただ、我々のような間接部門が、アウトプットを数値化することには、難しさがあります。パイロット部署の部員からは「我々のアウトプットを把握する指標はこれではないと思う」という意見もでます。意見は歓迎です。運営サイドが決めたことが、絶対に正しいわけではありません。どんな指標が良いか、部員とも議論して意見をだしてもらい、ブラッシュアップしていきます。

また、「本当に数値化が必要なのか」という意見もでます。点数をつけるのが難しく、その難しさがストレスだ、というわけですね。これに対しては、「100%ではないかもしれないけれど、それなりに検討した要素を数値化して確認をすることが、前に進むためのエンジンになるのではないか」と説明しています。

河田 数値がすべてとは思いませんが、もっと定量化して把握することは必要だと思います。私は趣味でテニスもゴルフもやりますが、点数のでるゴルフの方が、自分の改善点を把握できてモチベーションもあがります。

加島 人から評価されるためのKPIではなく、自分たちが前進するためのKPIである、ということですね。

着実に改革に取り組むための1 on 1ミーティング

樋口 個人の働き方KPIの分子の部分では、取り組みの実施度を要素にいれています。しかし、「きちんと取り組むように」と伝えるだけでは、きっと何も変わらないはずです。
そこで週次で、部下と上司が1対1で話し合い、行動の振り返りと課題解決を行う、1 on 1ミーティングを行うことにしています。さらに月次では部門ごとにレビューミーティングを開催し、「働き方改革」のPDCAを回すようにしています。
このことは、個人の業務プロセスの改善と同時に、教育的な性格を持った取り組みだと考えています。

中野 上司の方からは、ミーティングのために時間をとられてしまう、という声をいただいていましたので、心配しておりました。

樋口 確かに、今までも部下としっかり話をしてきたつもりでした。しかし、行ってみたところ、思わぬ効果がありました。仕事のついでの話ではなく、1対1で、今まではしなかった話ができた。信頼関係が深まったという評価を、部下だけでなく、上司もしています。これは改革を進める上での安心感になるでしょう。

河田 私も1 on 1ミーティングをやってみたとき、私が身を乗り出して話を聞いていたことに対し、相手から「威圧的に感じる」という指摘を受けました。私は少し耳が聞こえにくいので身を乗り出してしまうのと、もともと声が大きいのでそう感じさせてしまうのかもしれない、と話したら、彼は「そうだったんですか」と非常に納得していました。1 on 1ミーティングでは、そんな個人的な話もします。

齊藤 今、私たちは走りながら「働き方改革」に取り組んでいると言っても過言ではありません。ですから、このように立ち止まって話をする機会がないと、進むべき方向を誤る懸念もあると思っています。また、「働き方改革」の推進のためには、若手の意見が重要ですが、その意見も立ち止まらないとでてこないのではないでしょうか。
それもバラバラに話を聞くのではなく、部員から部署、部署から部門へと話した内容が伝わる仕組みになっていることも良い点だと思います。

河田 部員のメンタルケアにも役立つのではないでしょうか。また、学生のリクルートのためにも、プラスの情報になります。

加島 日本企業の職場本来の良さに回帰するようなことが、「働き方改革」の中に必要なのかもしれませんね。

凡事徹底と働き方改革は、必ず両立させなければならない

加島 最後に今後の展望を伺えますか。

樋口 今回パイロット部署で取り組んでいる成果を整理し改善して、次は土木技術本部全体の取り組みにつなげます。
今、最も手ごたえを感じているのは、1 on 1ミーティングですが、個人レベルの改善だけでは限界があります。タスクフォースを作って進めている業務・組織改革と共にトータルに行う必要があります。

齊藤 我々の仕事は自然を相手にして行うものであり、機械化やロボット化が進んだとしても、やはり最終的には「人」が行う仕事です。
当社社長の井上がよく使う言葉に、「凡事徹底」という言葉があります。「働き方改革」を進めるにあたっても、その精神を忘れてはいけないと思います。

河田 そこを間違えると、建設業がおかしくなります。我々だけでなく、建設現場の人間も同様でなければなりません。

齊藤 そんな建設業の心をもった人材をどう育てるか。「働き方改革」は、そのこと抜きには進められないと思っています。

加島 少しでもそんな課題解決のお役に立ちますよう、私たちも精進いたします。本日はありがとうございました。

Interviewer/株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二/セネラルマネジャー 中野 新悟
2018年1月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

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