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創業者のような経営リーダー

創業者のような経営リーダーをどう育てるか

創業者のような経営リーダーが必要な時代

ピーター・ドラッカー氏は、著書『イノベーションと企業家精神』の中で、「イノベーションとその重要性について最も興味ある例は、近代日本を創った〈明治〉である」と述べ、近代におけるイノベーションの成功例として日本の明治時代を研究しました。この時期の日本では、渋沢栄一のような、それまで武士だったリーダー達が実業家に次々と転じていきました。そして、当時の西洋の優れた「製品」を買い集めるのではなく、自国で同じレベルのものを作れるように、西洋の「技術」を自分たちのものにしていくことを基本戦略とし、そのための会社の仕組みや人材育成のやり方を一から創り上げていきました。つまり明治の実業家たちは、それまでの古い日本の上に、今までの仕組みを活かして、新しい日本を作り上げなければいけない、ということを確信していたのです。

単に西洋に追いつこうとしたのではなく、日本のずっと先の行く末を大きく捉えて事を進めていったのだと思います。これこそが、創業精神、企業家精神の本質ではないでしょうか。そしてこの精神が、戦後までの多くの起業家たちに引き継がれていったことにより、日本は企業社会として目覚ましい発展を遂げることができたのです。日本はその昔、アントレプレナー大国だったのです。

今、世界は第4次産業革命に突入し、大きな転換点を迎えようとしています。このターニングポイントに、企業が針路を定め、舵を切るために、今また明治から戦後まで引き継がれていったような創業精神、企業家精神が必要になっていると思うのです。

それはすなわち、「創業者のような経営リーダーを育てることはできるのか」「どう育てればいいのか」という難題に向き合うことになります。

当然のことですが、多くの大企業では時の経過と共に創業者から幾度となく代替わりをしてきました。代替わりを繰り返せば繰り返すほど、経営者にとっては「会社を倒産させないこと」が、最も大事な目標になっていきます。その過程で、創業精神が薄れていくのは当然のことと言えます。

大きな社会の転換点を迎えた今、創業精神・企業家精神が希薄になっていることに、経営者が大きな危機感を抱いているように思います。「経営を託せる人材がいない」という言葉を多くの経営者から聞きますが、それは、自社の未来が見通せない時代だからこその苦悩を表しているように思います。

かくいう私も創業者と長い間仕事をしてきた一人ですが、自分自身が創業精神を受け継ぎ、企業家精神を育む必要性を常々、痛感しています。そんな自身の経験と、これまで大企業の創業者の「経営塾(社長の私塾)」をサポートさせていただいた体験から、「創業者のような経営リーダーをどう育てればいいのか」について、具体策を提示したいと思います。

 

経営理念の裏にある、自社の存在理由を深く考える

多くの企業で、経営理念の教育はこれまでも行われてきています。しかし、創業精神を学び、企業家精神を育てるためには、出来上がった経営理念の理解だけでなく、経営理念の裏にある、その企業の「存在理由」について深く考えてもらうことが重要です。経営理念とは、その企業がなぜ存在するのか、という存在理由を突き詰めたものだからです。

企業の存在理由は、創業者の生い立ちや人間性、創業時の時代背景に深く関連しているため、それらを深く知らないと本当には理解できません。

例えば、ホンダの経営理念は「人間尊重」「三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)」です。小さな修理工場から身を起こした本田宗一郎氏は自身の生い立ちや経験から、お客様が喜ぶ120%の良品を作り、販売することが、それに関わる全ての人間の最高の喜びだという信念を持つに至りました。つまりホンダという会社は人間の喜びを追求することを目的として作られた企業であり、そのためのモビリティ製品を作っている会社なのです。ホンダの経営理念から、自社の存在理由を学び取るのであれば、「人の喜び」について研究しなければなりません。喜びにこだわり、人が喜ぶということはどういうことなのかを突き詰めることこそが、ホンダの独自性につながっているのです。すなわち、経営理念を学ぶことは企業人としての世界観を磨くということなのです。世の中が変わっていく中で、自社の存在理由について深く考え、再定義していくことが創業の精神を深く考えるということでもあります。

周囲に興味を抱かせるように経営理念を説明できる人は、皆、創業者の人間像や創業時のストーリーを知っています。何より、創業時のリーダーの姿勢を知り、そこから刺激をうけて、自分の勇気を奮い立たせることができる人材が、自社の経営を任せられる人材の必要条件だと思うのです。

 

自分が経験していない事業や業務を追体験する

 経営リーダーには、全社的視点が求められ、自分が経験していない事業や業務についてもその本質を理解していなければなりません。様々な事業を直接経験できることが一番良いのかもしれませんが、人事異動で経験できる部署は、多くても3~4か所が限界で、実際問題として自分が経験出来る部署だけで全社的な視野を身につけることはほとんど不可能です。経験学習でカバーできる領域には限界があるのだという前提に立って、現実的な方法を採用すべきです。

具体的には、自社のエポックメイキングな出来事について、ケーススタディ教材を作成し、そのストーリーを詳しく追いかけるような自社ケースプログラムが有効です。

どの事業や関連会社がそれぞれどんな歴史を持っているのか、どんな出来事や経営判断で今の形になっているのか、今後はどんな方向に行くべきなのか。こうした議論を繰り返すことで、自分の会社の全体像や輪郭がはっきりと見えてくるはずです。

企業の中では、よく「社長の出身母体は○○だから、今回の判断は…」といった話を聞くことがあります。これは出身母体で培った視野や視点だけで判断を行ってしまうことが、よくあるということではないでしょうか。また、日本企業では複数の部署が集まって経営計画などを発表する会議で、発表内容に他部署から突っ込んだ質問が発せられることはほとんどないでしょう。これは遠慮しているのではなく、わからないのだと思います。ですから、部門や組織の壁を越えた場などを設けても、リーダー達が切磋琢磨し合う場にはなかなかならないのです。

今多くの企業で、「ONE◯◯◯(ONEチーム化)」という標語で、全社で一つになってお客様に対応しよう、部門や事業の間にチャンスが眠っている、という組織革新活動が盛んです。こうした活動を後押しする意味でも、経営リーダー候補が、自分は直接経験していないグループ企業や、多くの事業の歴史と概要について学ぶ、学ぶというより追体験するような機会を持つことは極めて有効です。

私自身の経験で僭越ですが、私が弊社グループの代表を引き継いだ際、関係会社の財務諸表を見ても、事業報告を聞いても、はじめはなかなかピンときませんでした。そこで、ここまでの数年間の事業のストーリーや、今のビジネスモデルを詳しく語ってもらったり、幹部以外の社員や同業の友人らに話を聞いてみました。すると、「なぜその時にそのような経営判断をしたのか」「なぜそれがKPIなのか」「どのような成長スピードを目指すべきなのか」という、自分なりの見立てが少しずつできていき、その結果、以前より深いレベルでコミュニケーションできるようになっていきました。自分が経験していない業務や事業の追体験をすることは、経営リーダー育成にとって、大きな効用があると感じています。

 

何よりも「創業の経験」こそが、創業者のような経営リーダーを育てる

創業者のような経営リーダーを育てる方法として最も効果的なのは、当たり前のようですが、自身で事業を興すことでしょう。既にある事業の運営や強化は、たとえそれが変革レベルのものであっても、今ある事業への取り組みであり、事業をゼロから興す創業との間には、大きな隔たりがあります。その隔たりは、経験することでしか埋めることが難しいものでしょう。

では会社を辞めて起業するしかない、と考えるのは早計です。例えば、メーカーであるソニーは、2001年に銀行(「ソニー銀行」)を設立しています。映像や音楽機器の製造が主力であったソニーが、映画やゲームなどのエンターテインメント事業を持つまでは理解できますが、銀行まで創ってしまうのですから、これはまさに創業です。銀行事業の設立時、古い雑居ビルの一室にソニーの社員はたった2~3名で、あとは元銀行マンらを採用して事業をつくり上げていきました。このように、大企業の中でも、「出島(でじま)」のような組織を作り、本体の目が届きにくい離れたところで、外部の人たちを巻き込んで事業を興す方法が有効だと思います。退路を絶って、夢をもち、人を集める。その覚悟と夢に惹かれた人たちが、奇跡を起こしたり、幸運を運んで来たりするのです。こうした創業のダイナミズムは、やってみないとわからないことです。

冒頭でも述べましたが、創業者の多くが「この製品・サービスは絶対に世の中に必要だ」、或いは「こんな仕組みがあると面白い。皆の役に立つ」という想いをもっています。創業者のような経営リーダーとは、自分のビジネスによって社会をもっと良く変えようという「想い」をもったリーダーです。

事業の「運営・改善・強化」だけを行うリーダーにとっては、経営理念などあってもなくても、あまり業務に関係がないと思う人も多いと思います。しかし、「創業」を体感したリーダーにとっては、創業の想いの結実である経営理念こそ全ての源、と思えるくらい大事だとわかるはずです。

 「想い」は様々なハードルを飛び越えさせる

青臭いようですが、創業の際のような「想い」は人を正しくしますし、人を強くもします。「想い」は国籍や性別、年齢もハードルではなくしてしまいます。事実、創業者には、高齢であっても瑞々しいリーダーシップを発揮し続ける経営リーダーがたくさんいます。

今号にご登場いただいた日本電産の永守会長もその一人ですし(※)、リチウムイオン蓄電池メーカー、エリーパワーの吉田社長は、一度銀行の副頭取を引退した後に電気自動車に出会い、69歳で起業し、80歳の今も未来を見据えたリーダーシップを発揮していらっしゃいます。

「想い」、あるいは想いや理念を教育する「DNA教育」といった言葉を聞くと、それはもともと生まれもっている素養であり、教育で身につけるものなのか、という印象があるかもしれません。しかし、生物学の世界では特定のDNAが発現するかどうかは、そのDNAを刺激する環境があるかどうかで決まることがわかっており、その環境とDNAの発現の関係を明らかにする研究が進んでいます。人材開発の世界でも同じだと思います。

大きな転換点である今は、まさに、自らの「想い」を経営理念や創業精神と共鳴させる創業者のような経営リーダーが育つ好機なのです。

※この原稿は「CELM BELIEF vol.19」に掲載されたものです

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