株式会社セルム(CELM)
ご質問やご相談はこちらお問い合わせ
株式会社セルム(CELM)

旭化成株式会社 – 人事課題全体を洗い出し深い部分から手をつける旭化成の人事変革

旭化成株式会社
取締役 兼 上席執行役員(人事担当)
橋爪 宗一郎氏

2016年4月。旭化成株式会社は、2025年度までに連結売上3兆円を目指す長期ビジョンを掲げた。売上げ規模で約1兆円以上の伸びを実現するための、変革を起こすということになる。それに連動して旭化成の人事部では、人事部門の中期経営計画をつくり、変革を支える組織・人財づくりに取り組む。そこで設定している人事課題とは、 「成長し続ける人と組織をつくる」という人財開発における根源的な課題だ。
「企業の内側の部分から変える」―。まさにそんな課題に取り組んでいるといえるだろう。
そのリーダーシップを執る 取締役兼上席執行役員の橋爪宗一郎氏にお話を伺った。

 

「成長し続ける人と組織」をつくることが、人事が目指す姿

加島 一般的にでき上がった仕組みや制度を運用する業務をもつ人財は、変化を嫌う傾向があります。そして特に、
成果の測りにくい人事部門は、変化を起こすことが難しいといわれます。
そのような状況の中では、取り組み内容と同じくらい、リーダーの信念とリーダーシップが重要になると思います。
そこで本日は、橋爪さまの想いや行動の背景を含めて、旭化成さまのお取り組みをお伺いできればと考えております。

橋爪 まず私の経歴ですが、私は‘81年に新卒で旭化成に入社して22年間、人事部の仕事に携ってきました。ですから、私のベースは人事です。その後、‘03年にイギリスのビジネススクールに短期留学の機会をいただき、帰国後は志願して、石油化学分野の事業開発部門に配属されました。旭化成は技術をもっている企業ですが、技術を活かすためにはオイルや天然ガスなどの原料の確保が必要です。そこで原料を保有する国々の企業をまわり、合弁事業の可能性を探ったのです。20社くらいと交渉をし、ビジネスとしての検討までいったのが3社、成立できたのが1社、それが私の次の配属先であるタイのプロジェクトです。‘08年にタイに合弁会社を設立して責任者として赴任し、その後経営者として務めた後、‘13年に人事部長として本社に戻りました。
‘16年に人事担当役員になり、人事部門の中期経営計画(以下、「中計」)を人事メンバー皆で策定しました。今はできる部分から議論を進め、取り組んでいるところです。

加島 人事部門の中計(HR中計)の内容について、お教えいただけますか。

橋爪 私たちが、目指すものは
「旭化成グループのビジョンの実現」「ビジネスの成長」「社員の遣り甲斐、働き甲斐」の3つです。
今は、移り変わりがもの凄く速くなっている時代ですから、目指すものを取り巻く環境や条件の変化も速くなっています。これに対応するためには、人と組織が常に成長して常に変化に対応し続ける、ということしか方法はないでしょう。
ですから人事が目指す姿は、目指すものが求める変化と、人と組織の成長が、正のスパイラルを繰り返していくような
イメージです。
では、これを実現するための条件を、具体的に整えていかなければなりません。そのために洗い出したアジェンダは、
11あります。

① 経営層の成長
② 次世代リーダーの育成
③ 第一線ラインマネジャーの育成
④ プロフェッショナル人財育成
⑤ 事業戦略と人財戦略一体化のための仕組みづくり
⑥ 国内外関係会社人事強化
⑦ 人事処遇制度全体の点検
⑧ 教育研修制度全体の点検
⑨ 働き方改革
⑩ 採用競争力の維持・強化
⑪ 人事部門の組織能力向上

取り組み段階は様々で、具体的に動き始めているものもあれば、コンセプト段階のものもあります。

 

経営層自らの成長への取り組みが、組織に「成長の文化」をもたらす

加島 これまでの取り組みの中で改めてお感じになったことは何でしょうか。

橋爪 アジェンダの①に関係するのですが、人と組織の成長は「上(経営層)から」取り組まないと始まらないということを再認識しました。具体的な施策としては、経営会議メンバーに対しエグゼクティブコーチングを実施しました。これは、自身の成長の機会になると共に、社員の育成に対して強いオーナーシップをもっていただくことにつながりました。
‘17年度は経営会議メンバーに実施しましたが、‘18年度はそれを執行役員に広げて実施しています。

加島 経営層の成長というテーマを、しかも、アジェンダの冒頭に挙げるということは、なかなか勇気の要ることだと思います。

橋爪 もちろん、社長や経営層の成長に人事が口を出せるのか、という躊躇はありました。しかし、すべてとは言いませんが、経営層の器が企業の成長の幅を決めてしまう部分はあります。そのことが気になったまま自主規制してしまい、他のことをやるというのは、何か違うだろうと思ったのです。そんな想いを社長に話したところ、すんなりと「そうかもしれないな」と同意してくれたのです。それでも、いざエグゼクティブコーチングを実施する際には、「僕もコーチングをうけるのか?」「でも先日賛成してくれましたよね」というやり取りはありましたよ(笑)。
実際にできるかどうかは、トップがどれだけ柔軟かに左右されるでしょう。たまたま旭化成は、社長が柔軟な人だったということだと思います。ここからスタートできてよかったと思います。

西野 昨年度は経営会議のメンバーの方々自らが次世代リーダー像を作りながら人財をリストアップし、絞り込みをされました。それも5か月というスピード感でやり遂げられたことにも驚きました。人財育成にオーナーシップをもった結果といえるでしょうか。

橋爪 スピードが速かったということについては、ご紹介いただいたファシリテーターの方の功績です。よくぞまとめてもらったなと思います。ただ、初回から経営層は、同じ問題意識をもっていたことが確認できました。次世代経営者のパイプラインをつくっていくのは自分達であることも一致していましたので、細部は別にして大筋で議論が紛糾することはありませんでしたね。
この取り組みについては結果がでてくるのはこれからですので、現状で手ごたえを論じることはできません。今後を注視していきたいと思います。

 

何か施策を打とうとした時に、「やおら」話を始めるのでは遅い

橋爪 アジェンダの⑤に挙げていますが、人財戦略は事業戦略と一体化している必要があります。そのために、私と人事部長の2人と、各事業/職能領域ごと計14単位の責任者で、1~2か月に1回のペースで「人財戦略会議」を始めました。議論し合うことを主目的にして、毎回異なる議題を話すのですが、これを実施してわかったことは、何か人事施策を実施しようという段階になって「やおら」話し始めるのでは遅い、ということです。
人事というと、昇進昇格のことを扱う仕事がありますので、なんとなく本音を話しにくいという感情を持たれがちだと思います。それが「同じことを話している」という感覚を共有した関係になれたと感じます。建前やポジショントークではなく、ビジネスの実態に基づいて、いろいろな意見を言ってもらえるようになってきました。
実はこれまでも旭化成はラインとスタッフが近いという社風だと思っており、ここに問題を感じていたわけではありませんでした。それでも「人財戦略会議」を行ったことで、さらに近くなったと思います。

 

制度も施策も「ラインマネジャーを通じて」しか実現できない

橋爪 そして最も重要、というより必須だと考えているのは、ラインマネジャーに人事制度や施策のオーナーシップを持ってもらうことです。マネジメントの定義の1つに「他者を動かし、他者を通じて成果を上げること」というものがありますが、マネジメントの役割を担うのはラインマネジャーです。人事ではありません。人事制度や仕組みを実際に運用するのはラインマネジャーですし、社員1人ひとりをみて育成できるのもラインマネジャーです。ラインマネジャーの意向が反映されていない制度や仕組みをつくっても、オーナーシップを持ってはもらえません。オーナーシップを持てないものに対しては、建前はともかくとして、コミットもできないでしょう。

具体的に説明しようとすると長くなってしまうのでここでは省きますが、ラインマネジャーと最初に議論すべきなのは、制度や施策の技術的な細部や良し悪しではなく、もっと深い部分です。その議論の手間と労力を惜しんでしまうと、制度も施策も死んでしまうのです。逆にラインマネジャーにオーナーシップを持ってもらえさえすれば制度も施策も生きる。そんな関係にあることを、忘れてはなりません。

 

加島 なかなか人事の方が自発的にそう考えるのは難しいことだと思います。そう固く信じる源のようなものはどこからきているのでしょうか。

橋爪 何でしょうね。私が20代のころに受けた研修で、「スタッフ」という言葉は「杖」という意味だと教えられたことを今でも覚えています。ラインの活動を助けるのがスタッフです。以来ずっとその考え方を抱いて仕事をしてきて。裏切られたと思ったことはありません。
また、私自身もラインマネジャーであったことがあり、その経験から、ラインマネジャーがいかにビジネスの成果を出すことに心を砕いているか、メンバーが働き甲斐を感じるために心を砕いているかを知っているということも影響しているかもしれません。もちろん、人によって拙い場合もあるかもしれませんが、良くするために何かしようとしていることを信じられます。

ただ、最近はやや短期的な成果を求められることが増えたため、なかなか長期的なビジョンや人の成長に時間がかけられないマネジャーも増えてきました。その部分については、もともとのマネジャーの位置づけや想いを思い出させてあげるような施策を、人事が用意する必要はあるのではないかと思っています。

 

HR中計の担い手である人事部門の実力が問われる

安池 HR中計の担い手である人事部門については、どのようにお考えですか。

橋爪 相当に、力を入れなければならないと思っています。制度論や技術論も大切ですが、それ以上に人事としてのパラダイム変換が必要です。人事としても業績への貢献が必要と言われて、「人件費というコストをできるだけ抑えることで経営に貢献する」などと考えているかもしれませんが、そもそも人件費=コストではありません。人への投資が、いかに付加価値を生んでいるのかをチェックし、高めていくことのほうが大切です。たぶんこれだけが、将来のビジネスの競争力の源泉なのです。
社長と話していても「制度をつくって運用するだけが人事の仕事だと思ってもらっては困る」と言われます。制度は大切で、ないがしろにはできませんが、私もそう思います。経営を経験すると、同じように考えるのかもしれません。ただこれは、言葉をいくら尽くして説明しても、なかなか変わるものではありません。ラインと一緒に制度や施策をつくり、それをうまく回すといった経験を1つひとつ積み重ねていくしかないですし、そんな経験をしても、変わらない人はいるでしょう。

「変わったかどうか」「だからどうするのか」と、デジタルに結論を求めてもあまり意味はありません。徐々に徐々に進むものなのです。方向としては間違っていないと思っていますが、本当に正しいかどうかを確認するためにも続けるしかありません。時折摩擦も起こしながら、日々議論を戦わせていきます。

加島 課題も現実も、ありのままに捉えたうえで、自然体で取り組んでいこうとされているように感じました。
本日はありがとうございました。

 

Interviewer/株式会社セルム 代表取締役社長 加島 禎二 / 執行役員 安池 智之/ 東日本マーケティング部 グループマネジャー 西野 隆是
2018年5月取材
※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

おすすめ記事

お問い合わせ

各種ご質問やご相談については
下記よりお問い合わせください。