ビジネスパートナーとしてのHRプロフェッショナルの必要性

中原 孝子

今、日本においてもビジネスパートナーとして機能するHRプロフェッショナルが求められています。にもかかわらず人材開発部門は、他社がやっているからと流行の研修や方法論に飛び付く傾向があります。
例えばグローバル人材育成だからといって皆が英語を習うのが、正しい選択でしょうか。英語が話せるようになったからといって、ビジネスニーズに近づいたのかどうかは測定ができません。
会社の経営目標を実現するために、何年後にどのようなパフォーマンスを実現できる人材が何人いることが望まれるのか、そしてそのニーズを受けてどのような人材開発を行うのか。その道筋が明確に見えていないと、ビジネスニーズに対して、どこまで近づけているのかが分かりません。そのためにも具体的な「測定値」を持つ必要があります。
事業部門はどの組織も一定の数値目標を課せられています。その数字を実現していくための実効的な提案ができなければ、人材開発部門はその存在意義を認めてもらえなくなってきているのではないでしょうか。

人材開発部門に求められるのは、経営層と事業部門にビジネスニーズを聞きに行き、様々なレベルで比較検討して課題解決につながる施策を打ち出していくことです。そのためには、事業部門が抱えている数値目標や事業目標に対して、どういう道筋でどんな貢献ができるのか、といったことを具体的な測定値をもって示していかなければなりません。
その際に重要なのが「定義づけ」です。達成すべき目標や解決すべき課題が定義されていないと測定はできません。また、測定できないものは改善できません。ポイントは、定義づけの過程で関係者と十分なディスカッションを行ない、何をもって測定するのかを合意形成していくことです。経営層や事業部に対して「どういう状態になれば、その目標を達成できたことになるのですか」と聞くことです。例えば、「6ヵ月後に、これなら変化したと言える」と測定できるもの(定義)になるまで、質問を繰り返すことです。その際、目の前の数値や今あるドキュメントを正確に分析できなければ、適切な質問はできません。その意味ではビジネス分析ができること、そして合意形成を導くファシリテーション力を持つことが人材開発部門にとって大前提となるでしょう。

人事部門はともするとリアクション的な動きが多くなりがちです。その原因として、自らが自らの領域にリミットをかけているということもあるように思います。利害関係の少ない立場で動けるというのが、人事部門ならではのアドバンテージです。自らプロアクティブに経営や事業部に対して組織目標を達成するための定義づけと測定値の合意形成をリードする、そしてモニタリングで変化を確認し、個人および組織の「達成感」を生み出す。この達成感を生み出すための支援が、今後、人事部門にとって重要なテーマとなると思います。

ビジネス・ゴール達成のために、自らがチェンジエージェントとして経営や事業部とコミュニケーションしていくことこそ、ビジネスパートナーとしての人材開発部門に求められる姿だと考えます。

(2013.8月 取材)

中原 孝子(なかはら こうこ)

インストラクショナルデザイン 代表取締役社長。岩手大学卒業後、米コーネル大学大学院にて教育の経済効果を学ぶ。外資系製造販売会社、金融機関、IT企業にて人材戦略部門のマネジャーを歴任後、2002年5月に独立し、現職。効果的な研修設計と効果測定、パフォーマンスコンサルティングによる人材開発機能の設計・支援、タレントマネジメントの運営支援などを提供している。ASTDインターナショナル・ジャパン 会長

最近著
『HPIの基本』(ジョー・ウィルモア著、中原孝子翻訳、ヒューマンバリュー、2011年)

業績向上に貢献する人材開発のための必須知識であるHPI(Human performance improvement)の導入プロセスを、わかりやすく解説している。