イノベーションの課題は実現の過程にある

丸山 嘉浩

私は今、アメリカを拠点にしていますので、イノベーションに対する日本人とアメリカ人の姿勢の違いを感じる機会がよくあります。アメリカ人はチャレンジャーを歓迎します。いいアイディアをもったチャレンジャーにはVC、弁護士、会計士などが集まり、既存の事業者に挑戦するのを応援します。 一方、日本では大きな変化は歓迎されず、むしろ既存の強者が順当勝ちをするのを好む風潮があると感じます。この違いは大きく、一企業の枠を超え社会や国家レベルの課題になっていると思います。日本ではこの風土・環境を自覚して、障壁を除いていかなくてはなりません。

また、日本ではイノベーションのシーズ(種)を見つけたら、それが花開くまでの全てを自分達でやろうとする、そうしなければいけないと思い込んでいるように見えます。結果として実現までの長いプロセスのどこかでつまずき、鳴かず飛ばずになってしまうことも多い。これでは時間とエネルギーの無駄遣いです。プロセス全てを自前で行う必要はなく、あるところまで成長したら他社に売却する、そんな割り切りがあってもいいと思います。
一方で、イノベーション実現までのプロセス全体の課題をとらえ、乗り越えていく視点も重要です。もともとイノベーションは、コラボレーション(協働)によって実現するものです。例えば「電球」は、それ自体が奇跡にも近い発明でしたが、送電ネットワークの発達というイノベーションがなければこれほどの価値を生まなかったでしょう。
経済が発展するに従って協働関係はより複雑化してきます。イノベーションがエンドユーザーに届くまでの間に介在する様々な利害関係者を巻き込み、イノベーションのメリットを共有できるかどうかが成功を左右します。

例えば映画のデジタル化というイノベーションではデジタルムービープレーヤーの普及が鍵でした。映画がデジタル化すれば、デジタルファイルで映像を送れるので、フィルムリールはいらなくなります。リールの複製には相当なコストがかかるのに対して、デジタルファイルはコストが安いだけでなく、画質が良く、仕様の変更も容易です。4館で上映の予定だった映画も観客が予想より多ければ5館に増やす、といったことも簡単にできます。いいことずくめのはずでしたが、当初は劇場が抵抗しました。何故か。フィルムリールの製作費用は配給会社がコストを負担するシステムだったからです。配給会社はコストを削減できるのですが、劇場側にはメリットがない。さらに当初はデジタルムービープレーヤーの設置費用の負担は劇場側だったので、普及が進まなかったのです。
そこで配給会社は、業界で共同してフィルムリールを作る場合にかかったはずの費用をプールするファンドをつくり、デジタルムービープレーヤーを劇場に無料で提供するための資金にしました。その結果、劇場は積極的に採用を進める様になったのです。デジタル映画の普及を決定づけたのは、技術的なイノベーションだけではなく、劇場を巻き込んだビジネスの進め方だったのです。

日本企業の中にイノベーションのシーズがないはずがありません。悪くないシーズなのになぜかうまく進まない、といった案件が社内にきっとあるはずです。
その案件がうまく進まない原因の解明を、プロセスに介在する利害関係者まで視点を広げると、突破口が見つかるものが出てくるはずです。

※参考:『ワイドレンズ』(東洋経済新報社、2013年)

(2013.5月 取材)

丸山 嘉浩(まるやま よしひろ)

Alcantara Associates, Inc. 代表。米国ダートマス大学エイモス・タック経営大学院修士課程(MBA)修了。三菱商事を経て、マッキンゼー&カンパニー社にて、主にファイナンシャルコンサルタント業務を担当。平成政策研究所にディレクターとして参加し、議員立法作業の支援を行う。スクウェアの米国法人、スクウェアソフト・インクにて上級副社長兼COO、D WonderlandとGama Internet Technology USA,Inc取締役。マイクロソフト コーポレーション Xbox事業本部ジェネラルマネジャーを経て2006年独立。
自身の事業を推進する傍ら、ベンチャー支援、再生コンサルタントとしても活動。世の中で主流となっているものにこそ疑いの目を向け、アンチテーゼを提示するところからチャンスを作り出すことを得意としている。