リーダーは管理力から「感化力」へ

桑畑 英紀

人事の施策が必ずしもビジネス戦略の成功に貢献しないことが指摘されています。これには、大きく二つの要因があるようです。
一つは、人事制度やシステムが、本当の意味で中長期の企業戦略に紐づいたものとなっていないという問題です。流行の追従や他社のマネ、あるいは答ありきのコンサルに従ったものとなっていることも少なくありません。
言うまでも無く、人事制度やシステムは、組織インフラとして企業戦略が最も効果的に実行されるよう、人々の行動をあるべき方向に導くものでなければなりません。「自社の企業戦略が成功するためには組織と人がどう動くことが最適か」という動的な観点から徹底的に見つめ直し、人々をそこに導く人事制度やシステムを具体化することが必要です。そのリンクがとれれば、戦略実行の成否と人事制度・システムの良し悪しの因果関係の検証も可能となり、そこからPDCAを回すことで、人事制度・システムをより一層高度化することもできるようになります。
もう一つの問題は、全社のビジネスプランが上位組織から下部組織のビジネスプランへ、そして一人ひとりの社員の行動計画へとリンクしていないということです。自分の目標や行動計画が、所属する組織のどのビジネスプランに対してどのような意味を持つものなのかさえ不明だということも少なくないようです。

一人ひとりの社員は、所属する組織が掲げる目標をしっかりと理解した上で、自らの役割に照らしながら「自分はどの組織目標に対してどう貢献する目標を掲げるか」を「自分ゴト」として自律的に考えなければなりません。そうして設定された目標に対して、上司が必要な調整を支援し、最終的な個人目標とする、これがドラッカーの提唱したMBO(Management By Objectives Through Self-control)です。
このプロセスをリーダーの観点から考えてみると、そこに求められるリーダーシップの要件も見えてきます。それは、管理力を駆使して部下をコントロールするのではなく、リーダーとして自身の掲げる目標やビジョンに共感させ、その実現のために部下として何をすべきかということを考えさせ、自律的に行動させる、そんなリーダーシップです。「〇〇長」になれば「権限」がついてきますから、命令でコントロールすれば人はそれなりに動いてくれるでしょう。しかし「権限」や管理技術に依拠した管理力によるコントロールだけでは、部下に適時的確な行動を自律的に取らせることなどできず、グローバル化に伴うビジネスフィールドの多様化や、変化の激しさを増す市場環境には対応できません。

一方、目標やビジョンの世界観に共感し「そうなりたい・実現したい」と心が動いた人々は、個別の指示命令に依存することなく、ただただその目標やビジョンの実現のために必要なことを考え行動します。感化された人々のチームが目標やビジョンの実現に向かって自律的に行動する力は本当に強いものです。
そんなリーダーシップの核となるのが「感化力」です。人を感化するには、相手の心を惹きつけ動かすための右脳的な能力が不可欠です。一人ひとりの自律性のレベルがビジネスの成否を分ける状況はますますその度を増しています。もはや、感化力のリーダーシップ無しにはビジネスの成功はあり得ない状況になっていると言えます。

(2013.8月 取材)

桑畑 英紀(くわはた ひでき)

イマージェンス 代表取締役社長。日米大手の事業会社で組織・人材マネジメントに従事、1999年にマーサージャパンへ移り、多くのプロジェクトを主導。人事・組織コンサルティング部門代表。2003年同社取締役。2008年に独立し、現在に至る。りそな銀行社外取締役、電通アライアンスパートナー、ISL幹事・ファカルティ、九州アジア経営塾ファカルティ。

最近著
『自分ゴト化』(電通インナーブランディングチーム.共著 ファーストプレス 2011年)

企業のブランドは、突き詰めれば社員の行動によって形成されるもの。そこで本書では普遍的な人間心理に着目し、企業ブランドを体現する行動を社員一人ひとりが「自分ゴト化」し、行動そのものをブランディングするための方法論とステップを明らかにする。