「異文化主張力」でビジネスのゲームに勝つ

T. W. カン

最近、日本経済にやや明るい兆しが見え始めています。TPP交渉参加や円安により日本企業は長かった「守り」の体制から「攻め」に転じています。安倍首相も各国で積極的なトップセールスを展開しており、これからさらに、国家の垣根を越えた経済活動や取引が活発になることでしょう。そうした中で、日本人一人ひとりの異文化主張力が不可欠になることは明白です。
ところがなぜか、日本人は異文化の国や人に対して言いたいことを言えません。そしてそのために異国で成し遂げたい目標に達することができません。日本企業は世界のあちこちで「技術で勝ってビジネスで負けて」しまっているのです。

日本の技術者は優秀ですが、技術一筋で精進することをよしとする風潮があります。しかしビジネスは競争であり、ゲームの決め手は必ずしも技術とは限りません。日本人はもっと視野を広げて、ゲームの仕組みにこだわる必要があります。例えばシリコンバレーのエンジニアはある一定の技術的経験を積んだ後、自身の社会的価値を高めるため、営業、マーケティング、企業提携、資金調達などのノウハウを続々と身につけていきます。
技術の優位性だけでヒットする商品やサービスは百に一つあるかないかで、残りの99%は、異文化主張力がその成功を左右すると言っても過言ではありません。異文化主張力とは、価値観・常識・習慣・英雄像に象徴される異文化環境下で、発言力、国際営業力、交渉力、人脈力を含めたあらゆる手段を通し目的を達成する行為なのです。
また、異文化環境はアウェイであり、ホームの常識は通用しません。ゲームのルールそのものが違うこともあります。アウェイはホームの延長線上にはなく、戦い方そのものが違うのです。
にもかかわらず、日本本社の人たちにとってはホームの市場はいわば4K-TVのような高解像度のカラー画像のように見え、アウェイの市場は解像度の低い白黒画像、しかも時には静止画のようにしか映らないことが多くあります。日本企業の社外取締役として経営会議で新規事業に関する議論を聞いていると、日本の国内市場でしか経験のない幹部たちは依然として、最大の市場機会が海外にあるのにもかかわらず、主に日本の顧客や国内の競合を念頭に発言していることが多いのです。
日本企業は最近まで、国内市場の規模が大きかったことが理由で、国内中心の体制をとっていてもかろうじて生存していくことが可能でした。また島国であること、歴史上侵略を免れたことなど、いくつかの要因が重なったことで、日本は異文化主張をする際に乗り越えなければならない高いハードルができました。

どの国の人にとっても異文化体験は難しいものですが、異文化のもたらす多様な視点や考え方には刺激的で進歩的なものも少なくありません。国境を越えると国内にはないチャンスがゴロゴロあるのです。
日本企業のグローバル化も以前と比べれば急速に進んではいるものの、米企業やサムスンに比べると、個人としての異文化経験の蓄積はまだまだ少ない状況です。この、ホモジニアス(同質)な環境からなる殻を破り、オープンマインドな組織を作ること、そしてアウェイでのゲームに勝つために戦い方を変えることが、今の日本に求められる真のグローバル化だと考えます。

(2014.5月 取材)

T. W. カン(T.W. Kang)

グローバル・シナージー・アソシエツ代表。東京生まれ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)卒業、ハーバード・ビジネススクールでMBA取得。米インテル本社勤務・インテルジャパン幹部を経て独立し、現職。サムスン、シーメンス、フィリップスなどの経営コンサルタント活動を行い、東証一部上場企業を含む日米中各国企業4社の社外取締役を歴任。

最近著
『異文化主張力 グローバルビジネスを勝ち抜く極意』(日本経済新聞出版社、2013年)

日米中韓欧5地域を往来し国際ビジネスの最前線で問題解決のプロとして活躍する経験、40年以上にわたる日本との関わり、自らの異文化奮闘の経験をもとに、日本語で書き下ろす本物のグローバル人材への条件。異なる文化の土俵の上で駆け引きに勝ち、目標を達成するための成功の鍵を紹介する。