「組織でPDCAを回す」~真の成長軌道入れのための分かれ目~

稲田 将人

企業の成長を俯瞰すると、一般的に、「黎明期」に始まり「成長期」を経て、「低迷期」に入ってしまうというS字型の曲線を描きますが、各段階で組織内部の様相は全く異なります。黎明期は資金も人も限られますが、少数の創業メンバーが、高速で精度の高いPDCA(Plan=企画、Do=実行、Check=検証、Action=進化・改善)を回します。そして、ブレークスルーに成功した企業が、成長軌道に入っていきます。成長期の前期は、組織も小さく、黎明期をともにしたメンバー同士が「やっていいこと、悪いこと」が共有できていますので、PDCAも素早く回すことができます。成長の勢いの中、失敗も責任追求が優先されません。ところが成長期の後半になってくると、組織も大きくなり、意思の疎通がそれまでと同じ様にはいきません。事業は伸びているので忙しさを言い訳に、まずCが甘くなります。そうすると必然的にPの精度も落ちていき、市場起点のPDCAが回らなくなっていきます。

 そもそも市場は変化するものなので、PDCAが回らなくなると、必然的に市場からの乖離を起こします。しかし一度、事業に勢いがついていると、問題点が結果として数字面に表れるまでに時差があり、経営は気づくのが遅れてしまいます。

 そして、実際に低迷期に入ってしまうと、経営は「次の成長基軸」や「新戦略」を欲します。戦略を求めてコンサルティング会社に相談するのは、多くはこのタイミングです。ところが日本企業では「和をもって尊し」の価値観がベースにあります。コンサルティング会社が戦略を立案したあと、経営が自らディレクションを行い、PDCAを回すことは少ないのが実態です。部長会に戦略を諮り、部長達が「高い金を出して作ったんだろう? いくつかの施策はやってやるよ」という話になれば、それはもう戦略とはいえません。

 大山鳴動、鼠一匹。会社は何も変わらない、という結果になります。

 戦略は、単なる初期仮説です。PDCAを回さないと検証もできず、前に進むことができません。PDCA とはPDS(Plan Do See)とは異なります。C(検証)の後にA(進化・改善)があることをいいます。つまり実行の結果をうけて、毎回「やり方を変える」ことです。

 どこの会社も、経営サイドは「できれば現状を変えたい」と思っていますが、同時に「やり方がわからない」「大きな混乱は避けたい」とも思っているのではないでしょうか。

 まずは自事業における、市場、競合状況、社内の現状の実態を把握し、社内のメンバーで戦略をつくるべきです。そして、経営自身が推進のドライバー役になって全社改革のPDCAを回す体制、つまりPDCAが回るメカニズムを作り、自ら回しに行くことが必要です。その過程で外部等の様々な知恵を取り込むのはいいでしょう。

 日本企業の経営の方々とお話をしていると、「うちはPDCAが回っていなくて…」と嘆く話を聞くことがあります。PDCAは、その組織の上位の方が回すものであり、全社のPDCAのドライバーは経営者です。権限委譲と言う言葉がありますが、少なくとも、「自信」がもてるディレクションなしに、「役割を与えるから、君がやりなさい」と言うだけでは、ただの無責任な丸投げです。PDCAが的確に回りはじめたら始めて、ドライブ役を譲っていく、これが本来の権限委譲です。自分でやっていないこと、自分でイメージできないことは、本来、委譲することはできないのです。

(2015.5月 取材)

稲田 将人(いなだ まさと)

早稲田大学大学院理工学研究科、米国コロンビア大学大学院コンピュータサイエンス科を修了。豊田自動織機勤務の後、マッキンゼーアンドカンパニーを経て、卑弥呼、アオキインターナショナル(現Aoki HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラなどの代表取締役、役員、事業責任者として経営改革に関わる。戦略構築に留まらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、PDCA力を高めて確実な成長軌道入れをすることをコンセプトとしている。

最近著
『経営参謀』(ダイヤモンド社、2014年)

マーケティングから企業戦略の立案と実行、そして改革阻止派との戦いを描く企業改革ノベル。主人公の高山の行動を通じて、経営参謀のマインド、思考、行動の勘所をリアルにつかむことのできる一冊。