アジア展開には「事業家」を育てる発想と覚悟が必要

福森 哲也

 学生の頃から、「国際人とは、その人の思考・言動・立ち居振る舞いが、国際的に競争力を持っている人のこと」と教えられてきました。最近流行の「グローバル人材」も、基本的には同じだと思っています。実際に今アジアで活躍しているグローバル人材は、社名や国籍/肩書/地位を取り外しても、現地で競争力を持っている方ばかりです。 

 アジア展開のために送り込まれる派遣者は、その国・エリアならではの①市場・競争環境、②競争のルール/ビジネスインフラを踏まえた目指すべき事業モデル、③『何でもありの総力戦』を戦い抜くための武器(商品・サービス・資金・ブランド・人材・ネットワーク・・・)を十二分に理解して戦わなくては、「本社が本社にいて決定する計画」を達成できないのが実状です。アジア展開は、国内の新たな市場で新規事業を立ち上げるのと同じレベルの難しさがあります。しかし、日本企業の多くは、「本社で既に完成された商品やサービス」に精通した人材をアジアに投入します。その基本的な発想は、日本でのビジネスの延長線でしかありません。

  もちろん最近では、一筋縄ではいかないアジアビジネスの現実を踏まえて、「現地化」という合言葉の下で様々な工夫がなされています。それでも、本社の『当たり前』は大きくは変えずに、そこに何かを継ぎ足す発想の「現地化」が多いのではないでしょうか。言語スキルを継ぎ足す、ローカルスタッフを継ぎ足す、現地向けのラインナップを継ぎ足す・・・事業そのものや、事業の意思決定を「現地化」している日本企業は少ないように思います。本社では商品やサービスのプロである派遣者は、現地では「事業家」としての多くの期待役割を担いながら、本社の『当たり前』と戦っているのが現実です。市場や競合と戦いながら本社の計画とも戦う日々。近年アジアでよく耳にする「OKY(おまえが・きて・やってみろ)」は、スーパーマンのような役割を背負わされた現地派遣者が、それに耐えられなくなった叫びなのだと思います。 

 アジアで本気で戦うのであれば、派遣者は「事業家人材候補」を選抜するという発想の転換が必要だと思います。国内でも「事業家」人材は足りていない中での選抜ですから、経営の覚悟が問われます。また、選抜された「事業家人材候補」に対しては、本社の組織・事業の延長としてではなく、新規事業責任者としての機能面での全面サポートが不可欠になってきます。人事・財務・経営企画・マーケティング・商品開発といった機能人材と、その国・エリアのエキスパートがチームとして支援する仕組み・体制が求められます。もちろん社内だけではなく、戦略や人材開発のプロフェッショナルファームや総合商社も含めたチームの組成がとても重要になってきます。現在の、竹やりで戦闘機と戦わせるような支援体制では、せっかくの「事業家人材候補」もグローバル人材と呼ばれる前に討ち死にしてしまいますから。 

 卵が先か鶏が先かの議論にはなりますが、思い切った「事業家人材候補」の選抜とアジアでの育成は、日本企業の長年の課題でもあった「事業家人材」の孵化器としての役割を担う可能性を持っています。

(2014.1月 取材)

福森 哲也(ふくもり てつや)

STIサポート代表取締役。コーポレイトディレクション(CDI)アジアビジネスユニット シニアアドバイザー。
日欧の戦略コンサルファームにて、『第2の創業支援』プロジェクト(上場前後のベンチャー/上場大手/地方有力企業)やM&Aプロジェクトに数多く従事。現在、企業内部に入り込む形での上場・未上場企業の『第2の創業支援』を行うと共に、ベトナムを中心としたアセアンでの『事業&人材開発』支援を行っている。

最近著
『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版、2010年)

ベトナムとベトナムビジネスの入門書。ミャンマー・カンボジア・ラオス版(2012年)と共に、アジア事業担当者・駐在員に幅広く活用されている。