経験的学習を通じて ラーニングのサイクルを短くしていく

藤岡 資正

 皆さんタイの茄子をご存知でしょうか。日本の茄子は紫色で細長いですが、タイで一般に流通している茄子は緑色で丸くて硬いものです。同じ「茄子」という言葉を使っていても想像するものが全く違います。そのことをお互いに理解していないと、何とも変な話の噛み合わない会話になってしまうでしょう。同じことがグローバルビジネスの場面でよくおこります。例えば住宅事業では、地震がないタイで日本並みの耐震構造は高品質とはみなされませんし、各部屋にバスルームがあり、メイドがいることが一般的な富裕層に対して、日本の住宅と同じ間取りでは全く相手にされません。

 これからは、中間層の増大が著しいアジア等の新興国が、マーケットとしての重要性を高めてきます。自分たちの価値観を押し付けるのではなく、「先進国が教える」という感覚でもなく、「マーケットwith」という価値共創の姿勢が求められます。規格化や標準化のみならず、地域に合わせ、地域での価値共創を志向する、マルチドメスティックな戦略も大切なのです。

 これを人材開発という視点でみると、本社主導の戦略でいく場合は本社と現地の調整能力が重要ですが、現地マーケット開拓という課題のためには現地に対して新しい価値をつくり上げる力が求められます。現地法人の駐在員達はそれを切実に感じています。本社側も頭では「わかっている」のですが、感じている危機感には明らかな差があります。また、タイであれば「日本人とタイ人」というように「日本人 vs ○○人」といった1対1で違いを認識して対応を考えがちです。
しかし、特にアジアでは多種多様な国籍の人材が集まっています。

 そもそもグローバル化に先行する欧米企業では「グローバル人材育成」とは、ことさらに言いません。「泥棒をしてはいけない」というくらいに当たり前のことだからです。
 既にこの問題に真剣に取り組んでいる企業も多くあります。こうした企業研修の参加者が必死で学ぶ姿勢をみていると、希望を感じます。ある大手企業の研修はタイで実施しました。日本で、「タイ経済はこんなに伸びている」と言われても「そうなのか」と思うことしかできませんが、タイ現地であれば、実際に現地のモールに出かけ混雑具合や客単価を見たり、100mの間に高級車が何台あるか等を観察することで、「知っている」ではなく、経験として感じることができます。受け身の姿勢から、自らの好奇心を自ら満たす積極的な学習へと移っていきます。

 得た情報をすぐに確かめて次のことを考え、互いに議論し、実践を通じて検証する。現地での学習(経験学習)は、ラーニングのサイクルを短く、より効果的なものにすることができます。
 学習の仕方を学習してもらうこと、それが大切なのです。

  アジアの変化は特に激しく、数カ月離れていただけで浦島太郎状態です。時間のスピード感が全く違うアジアにおいては、「失敗しないことはない」と考えておいた方がいいでしょう。逆に言えば失敗できるのがアジアです。今の日本では失敗している余裕がないので、人が成長する機会もありません。おそらく人材育成には正解はなく、常に試行錯誤を繰り返していくことが大切です。考えていても、正解が出てくるどころか機会を逃してしまいます。理論と実践の往復運動のサイクルを素早く回しながら、これまで自明視されている事象を相対的に見つめ直す機会を通じて自ら学習するコトで育つのです。

(2015.9月 取材)

藤岡 資正(ふじおか たかまさ)

チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター所長。オックスフォード大学サイード経営大学院、経営哲学博士(Doctor of Philosophy in Management Studies)及び経営学修士(MSc.in Management Studies)。ケロッグ経営大学院客員研究員を経て現職。
現在、早稲田大学大学院客員准教授、名古屋商科大学大学院客員教授などを兼任。
専門は経営戦略論、マネジメント・コントロール・システム論。上場企業から中小企業まで、数多くの日本企業の顧問を務める。タイ国文化省芸術局名誉顧問、姫路市観光大使。

最近著
『日本企業のタイ+ワン戦略』(同友館、2015年)

タイを中心にしたメコン川流域地域で日本企業がとるべき戦略を、各国の状況検証・分析から、洞察する。