スキル偏重から脱し、「人事リテラシー」の高いミドルの育成を

相原 孝夫

ミドルを対象とした管理職研修をいくらやっても、マネジメントができるようにならない―そうした相談をよく受けることがあります。なぜできるようにならないのか。それは、マネジメントスキルを学ぶ以前に、「人事リテラシー」が身についていないからです。いくら泳ぎ方だけ教わっても、水に慣れたり、どうすれば浮いたり沈んだりするかを知っていないと泳げないのと同じで、正しい手順を踏まずにスキルやノウハウだけを教わっても発揮できるようにはなりません。

私は人事リテラシーを、「自己を正しく理解し、他者とうまく関わり合い、他者に対して効果的に影響力を行使する上での素地」と定義しています。本来、組織内の全員が持つべき要素ですが、特に現場実行のキーマンであるミドルにとっては、備えておくべき非常に大事な力です。にもかかわらずその力がなくなってきたのは、人事リテラシーを鍛える機会が減ってきているからと言えます。

かつての職場は、他者の仕事にも首を突っ込んだり、飲み会などインフォーマルな対話の機会があったりと、人間関係が濃厚で、人事リテラシーが身につく環境がありました。しかしバブル崩壊後は短期的な成果が求められるようになり、皆自分の仕事にしか関心を寄せなくなるなど職場が分断された上に、スキル偏重の研修の増加もあって、人事リテラシーを高める機会はなくなってきています。加えて、年齢や性別、働き方も多様化し、かつて同質化された中で迷いなくできていたマネジメントが通用しなくなっています。環境変化が激しく、経営者自身も明確な方向性を示せない中、ミドルは多様なメンバーに説得力をもって上層部の方針を伝え、彼らをまとめ、成果を出さねばなりません。そこに人事リテラシーが必要なのは、言うまでもありません。ミドルには「いかに成果を出すか」だけでなく、「いかに多様な人たちを動かして成果を出させるか」が求められているのです。そのためには、スキルに偏りがちな従来型の管理職研修では限界があります。

では、人事リテラシーを高めるにはどうしたらいいか。私は自分自身や他者について、じっくり考える機会が必要だと考えます。特に、自分にはどういう特徴があり、どんな時にどういう力を発揮するのかがわかっていれば、自分をうまくコントロールでき、人に対する関わり方も変わってきます。自己理解ができている人は、自分の欠点もわかっているので、他者に助けを求めることもでき、他者としなやかな関係を築けるのです。

自己理解の具体的な方法の1つとして、360度評価は意義があると思いますが、ここで忘れてはならないのは、「果敢な意思決定」や「成果への意識付け」など、「厳しさ」を含む要素を評価項目に入れることです。言いやすいことは誰でも言えますが、言いづらいことをいかに納得感を持って聞いてもらい、それを行動に移してもらえるか。そうしたことが管理職には求められているからです。

本来、人を通じて成果をあげる管理職になるうえで、自分自身の棚卸をし、人事リテラシーを高めるべきでしょう。そうした下地ができればマネジメントスキルも身につきます。多様化したメンバー一人ひとりに適切な対応ができるようになり、
職場は活性化し、ひいては成果につながるはずです。

(2014.9月 取材)

相原 孝夫(あいはら たかお)

HRアドバンテージ代表取締役社長。人事・組織コンサルタント。マーサージャパン代表取締役副社長を経て、2006年4月より現職。人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。厚生労働省および総務省の研究会委員、日本人材マネジメント協会 (JSHRM)幹事等を歴任。早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。

最近著
『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』(幻冬舎、2013年)

モチベーションという言葉が仕事の場面で盛んに使われ始めたのはリーマンショック以降。時を同じくして職場うつの問題が急浮上したのは、高い意欲を礼賛する風潮が、働き方を窮屈にした背景があるとする。企業におけるモチベーションの議論をやや行き過ぎの感があるとし、気持ちに左右されない安定感ある働き方を提言する。